ひらりと…
※59
現パロ
大学生位?
桜の季節の小話

暖かな日差しを感じ、バッツはゆっくりと目を開けた。

「朝か…」

仰向けに寝た身体を横にひねり、抱えていた掛布に顔を埋める。
ボーッとした頭に台所からガチャガチャという音が響く…あれ?誰かいる…??

「…!」

ガバッとベッドから起き、昨夜の事を思い出す。

「そうか、俺寝ちゃって…」

あぁ〜と、声を上げがっくり肩を落とすと、台所からジタンが顔を出す。

「やっと起きたか〜ほい、水」
「おはよ…」

ジタンからペットボトルの水を受け取り口を付ける。
乾いた喉に冷たさが心地好い。

「最近忙しそうだったからなぁ…あの酒の量で即、爆睡とは…」
「いやぁ、面目無い」

大学の授業だバイトだ助っ人だその他諸々…と、最近慌ただしいバッツだったが、昨夜はたまたまジタンと予定が合った。
自宅のアパートに来てくれたが、ちょっと飲んだビールに疲労が重なり…バッツが眠りに落ちるのは10分とかからなかった…らしい。

「うー…久し振りに会えたから、朝までコースの予定だったのに…」
「…何だそれ?」
「え?そりゃもちろんエッ…あ、痛っ」

ジタンはペットボトルを奪い、頭を軽く叩く。
パコッと小気味良い音を残し、そのまま台所へ戻ってしまった。

「アホ言ってないで朝メシにしようぜ」

一人暮らしの小さなテーブルに、オムレツやらサラダやらパン等を運び乗せる。

「わージタンの料理も久し振りだー」
「大したモンじゃないけどな」

ちょっと照れてる顔を見るのもご無沙汰なバッツは、部屋を照らす日差し同様、心もポカポカとしてくる。

「「いただきまーす!」」

昨夜はほとんど食事をせずに寝てしまったせいか、バッツの食べるスピードが半端無い。
それを満足そうに見つめるジタンの視線には、あいにく気付いてない様だ。

「さて、バッツ。今日はどうしようか…天気良いなぁ…」

ジタンはサラダを食べながら窓の外を眺める。
桜はもう満開だろう…たまには散歩でもして風流に花見なんていいかもな…そんな案をジタンは出してみたが…。

「えー…久々に二人きりだから、俺は昨夜のリベンジした…あ、痛っ」

フォークで腕を(軽く)刺され、しぶしぶジタンの案に同意した。



***



「おー!やっぱ満開だ」

近所の河川敷にある桜並木を見上げながら、ジタンは先に歩く。
後ろからパーカーのポケットに手を突っ込んだバッツが、欠伸をしながら付いて来る。

「綺麗だけど…毎年見てるからなぁ…」
「でも、こうテンション上がらねぇか?」

確かに春が来た!という感じはするし、緑も花も鮮やかに街並みを彩ってくれるし…更に暑苦しい冬服から開放される事を考えると…。

「うん、まぁ、そうだな」
「だろ?それに、桜の見れる日数は限られるし…」

楽しまないと!と、ジタンは上着からゴソゴソと昨夜の残りの缶ビールを二本取り出した。

「準備いいなぁ」
「まぁ、ぷち花見って事で」

ちょっと温い缶ビールを開け、二人は小さく乾杯する。

「うーん…やっぱり苦いな…違うのにすれば良かった」
「お兄さんが手伝ってやろうか?」

すでに半分以上飲み干したバッツが、ニヤニヤとジタンを見つめる。

「む。この位へーきだって!」

バッツが「あ」と言う間もなく、ジタンはゴクゴクと残りのビールを飲み干していく。
ぷはっと息を吐き、「どうだ!」と、言わんばかりの目でバッツを見る。

「お見逸れいたしました…」

その後、二人はその場に佇み、桜を眺めボーッとしていた。
しばらくしてどちらかともなく歩きだし、自然とバッツのアパートへの道に向かう。
河川敷の階段を降り、道路を渡り、路地へ入っていく。

「さて、ジタン。この後どうしようか…DVDでも借りてくる?」
「そうだなぁ…」

ふと、立ち止まって考え込んだジタンを振り返る。
ビールのせいだろうか、ほんのり頬が赤い。

「いいけど…」
「何が?」
「…昨夜のリベンジでも」
「あーうん…って、えええええ〜〜?!」

住宅街に響き渡る大声を出したバッツの横をジタンが走ってすり抜ける。

「早くしないと、俺の気が変わっちゃうかもしれないぜ!」

それはまずい、とバッツは大慌てでジタンの後を追いかける。
パーカーの帽子からひらりと桜の花びらが飛び出した。

それはゆっくりと二人を見守る様に舞い落ちる。
着地する頃には、もう二人は見えなくなっていたけれど。


〜fin〜


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2012 4/19 UP
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