loss of memory〜2
※589
前回の続き

あれから数日、未だジタンの記憶は戻らないまま三人は旅を続けていた。

戦闘を見れば少しは思い出してくれるかもしれない…と、二人はイミテーションを倒すところをジタンに見せたりもした。

「どうだ、ジタン。何か思い出したか?」
「お前も俺達とこうやって戦っていたんだが」

当のジタンはあんぐり口を開け『信じられない』といった顔で二人を見つめる。

「そんな…僕には無理…です」
「(あああ〜その口調慣れないってば…!)そ、そんな事ないぜ。こうやって短剣を二本、自在に操ってだな…」
「(非常に違和感だ…)そ、空を駆ける様に移動するのが得意だったんだ」

バッツはジタンの技を真似て見せてみるが、いまいちピンとこない様だ。
ジタンも自分の武器を出して同じようにやってみるも、虚しく双剣は手から滑り落ちる。

「ごめんなさい、出来ない…」
「いいって、焦っちゃってゴメンな!」
「ゆっくり考えていこう…」

はは…と苦笑いをするバッツとスコールは、ジタンに見えない所でガックリ肩を落とした。



***



夜になり、小さいが身を隠すのには十分な森を見付けた三人は野営の準備をする。
小さな焚火を囲み、ささやかな夕食を摂りながら疲れを癒していた。

「うーん…やっぱりこのスープ一味足りない気が…」
「文句があるなら食べるな」
「いやいやいや、スコール様の作ったやつに文句なんてそんな〜」
「言ってるだろう…!」

二人のやり取りを眺めていたジタンが、クスリと小さく笑う。

「お、ジタンもそう思うか?」
「ううん、何だか楽しいなぁ…って」

スープの器を傍に置き、ジタンは言葉を続けた。

「何となくだけど、こういう雰囲気はとても心地好い…そんな事を感じる…かも」

穏やかな笑顔でそう言われた二人は、記憶を失う前のジタンを思い出す。
戦闘の日々、戦いの最中は常に緊張を強いられ精神的にも肉体的にも辛い事が多い。
自分達は戦士で、場馴れしているとはいえ…だ。

そんな中、仲間達との休息は頭と身体を休める貴重な時であり、特にジタンはその時間を大切にしていた気がする。
ふざけたり、真面目な話をしてみたり、またふざけたり…元気に動き回っていた事を思い出す。

「俺も、この時間好きだぜ」
「あぁ…俺もだ」

そう言って、二人はジタンの頭に手をのせ軽く撫でる。

「早く、自分自身を取り戻さないと…」
「ゆっくりでいいさ。な、スコール」
「信じていれば大丈夫だ」

三人の笑いが森に小さく響いた瞬間、頭上から聞き覚えのある声がした。

「全く、見ていて気持ちが悪い…三人で仲良しごっこかい?」

ふわりと宙を舞い降りてきたのは、ジタンや他の二人もよく知るカオスの戦士クジャだった。
瞬時に、武器を構え戦闘態勢になるバッツとスコールを上から不敵な笑みを浮かべながら見つめてくる。
ジタンも一応は武器を出してみるものの、上空にいるクジャを睨むだけで精一杯だった…二人の背後でじっと様子を伺う。

「聞けばそこのジタンは記憶を無くしてしまったらしいじゃないか…何だい?その構えは…滑稽だねぇ」
「う、うるさい!」

指先から光を放つ。
それは強さはさほど無いものの、三人を翻弄する様に追いかける。
三人は散り、また武器を構えた。

「何の用だ!ディナーの時間を邪魔するなんて無粋だな」
「…おや、それは失礼。今日は戦いに来た訳じゃないんだ」
「だったら、消される前に帰れ」

ストン、と地上に降りたクジャは、目の前のジタンをまるで面白いものを見るかの様に
眺めている。
ジタンは困惑した表情で相手を見据えた。

「……」
「これは愉快だ…本当の話だった様だね」

大げさなポーズは相変わらず、派手なアクションを取りつつジタンを嘲笑った。

「……!」

戦闘しないと言っても、油断は出来ないのでバッツとスコールはジタンの傍に駆け寄ったが、急にジタンがその場で頭を抱えて倒れ込んだ。

「おい!大丈夫か?!」
「……ッ!」
「何か言ったかジタン?」

心配顔の二人をよそに、急にジタンは立ち上がり鋭い目付きで目の前のクジャを指差し大声で叫んだ。

「その格好は…クジャ!!」

その場にいた全員が固まったのは言うまでもなく…。



***



怒りに暴れそうなクジャを何とか追い返す事に成功したバッツとスコールは、疲労困憊のまま記憶が戻ったジタンの話を聞く事にした。

「えーと、アレだ…そう、あのイミテーションってクジャだったよな…確か」
「うん、そうだった」
「だからさ、あの時バッツ助けなきゃーって、思いながらもイミテ見たらまんまクジャだったから…」
「それがどうしたと言うんだ?」

ジタンはうーん…と、腕組みをし、記憶を辿る。

「アイツ、イミテーションでもパンツ姿なの変わんねーな…って思ったんだ、きっと!」

ポン、と手を叩き一人で納得するジタンに、バッツとスコールは全身が脱力するのを感じずにはいられなかった…。

「いやーまさか、俺が記憶喪失になってるとは思わなかった…二人に迷惑かけちゃったな」
「いや、そんな…元はと言えば俺が悪いんだし…」
「と、とにかく戻って良かった…な」

ジタンはいつもの調子と口調で『くっそークジャの奴…ただ笑いに来ただけって、どんだけヒマ人なんだよ』とか『どうせだったらレディの胸とかそういうので記憶を戻したかったぜ』等々、ブツブツ文句を言っている。

「なぁ、スコール…ちょっと前にいた慣れないけど可愛かったあのジタンはどこに行ってしまったんだ?」
「…さぁな、どこかへデジョンしたのだろう…」

とりあえず、夜が明けたら他の仲間に報告しなければ…戻った経過は話さなくていいか…と、一人思案するスコールだった。


〜fin〜


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2012 4.10 UP
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