出会い
※89現パロ
Under Lover

その日は雨が降っていた。

傘をさし、いつもの様にいつもの道を家路へと辿る。時刻は夕方、辺りは暗くなりかけていた。

雨のせいか少し肌寒く、スコールは角を曲がりあまり舗装が整ってない石畳の道を足早に歩いていく。

自宅のあるマンションまであともう少し、着いたら暖かいコーヒーでも飲もう…と、考えていたスコールの前に道路から何かが飛び込んで来た。

…子猫?

雨に打たれ、ずぶ濡れの子猫は空とも森ともとれる色をした目でスコールをじっと見つめている。

「…お前、ノラか?」

スコールは子猫の前でしゃがみ、左手を差し出した…が、まるで無視をするかの様にふい、と細い路地へゆっくり歩いて行く。

(行ってしまったか…)

立ち上がったスコールは、子猫が消えた路地をしばらく眺めていたが、また足を自宅へと向ける。

瞬間、路地から先程の子猫と思われる鳴き声が聞こえた。
それは止む事は無く、まるで『こっちにおいで』と言われてる様な…そんな声だった。

その声に誘われる様に、あまり広くない、スコール1人がやっと通れる位の路地に踏み入れてみる。
薄汚れた物置や所々ゴミが落ちている、正直雑多で普段だったら絶対通らない…そんな道を数メートル進んだ所に子猫は居た。

ただ、そこには子猫以外にもう1人。
建物の裏口だろうか、階段にうずくまる様に座って、傍らで子猫の頭を撫でている。
はっきりと顔は見えないが、身体つきは小柄で少年の様だ。
印象的な金の髪は雨に濡れ…いや、もうすでに全身雨に打たれており、一緒にいる子猫と変わりがなかった。


「お前もびしょ濡れだなぁ」

ひょい、と子猫を抱き上げ胸に抱き、またその場でうずくまる。

「おい」

つい声をかけてしまったスコールに、その人物は驚いた表情を向けてきた。
瞳は子猫と同じ色、空の様な森の緑の様な…不思議な色…。

「アンタ誰?何か用?」
「……」

正直しまったと思った。
普段からあまり口数の多くない上に、こうして見知らぬ人間に話しかける事は殆ど無い…なのに何故…。

次の台詞が中々出てこないスコールに、怪訝な表情を浮かべたその少年は胸に子猫を抱いたまま、立ち上がってその場を去ろうとする。

「おい」
「だから何か用かよ…」

うっとおしそうにスコールを見てため息をひとつ。

「その…風邪をひくぞ」
「はぃ?」
「使え」

自分の傘を差しだしたスコールの表情は堅く、とても朗らかに、とは程遠い。
少年は目をぱちくりとするも、傘を受け取る事は無かった。

「アンタが濡れるよ」
「もうすぐ家だ…問題ない」
「…ふーん、そう」

じーっとスコールを見つめ暫く考えこんでいたその少年は、先程の険しい表情から一変、ニコリと笑みを向けてきた。

意図が読めず、その場に立ち尽くしているスコールに身体をすり寄せて言い放った。

「じゃあ、今夜はお兄さんの所でお世話になろうかな」
「……何だと?」
「だ・か・ら〜風邪予防にさ、泊めてよ」

ニヤニヤ笑いながらスコールの胸元に、まるで甘えるかの様に顔を埋める。
ニャーと抱いてる子猫も一緒に泣く始末だ。

スコールは頭の中で状況を必死に整理したが、更に少年は言葉を続ける。
妙に色気を含んだ声で…。

「…勿論、一晩お礼はするぜ」

気が遠くなるのを我慢しつつ、スコールは立っているだけで精一杯だった。


〜続く〜


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2012 6.16 UP
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