頼もしいカレ
※89?
現パロ
ちょっと不真面目

「お待たせ〜」
「久し振りだな」
「卒業してから一週間しか経ってないのにな」

卒業後の春休み、久し振りに会おうと駅前にある女神像で待ち合わせをした三人。
事前にカラオケだのゲーセンだのと、学生時代と変わりない予定を立てていたが…結局、たまには映画にでもしようぜ!と、ジタンの案が決定された。

映画館まで三人でぶらぶらと、他愛もない話をしながら歩いていると急にバッツが「あ!」と声を上げ、数軒先のペットショップへ走って行く。

「って、おーいバッツどうしたんだよ」

その後をジタンが追いかけると、バッツは店のガラスにへばり付いたまま嬉しそうに中を覗いている。

「見ろよ、子チョコボだ。可愛いなぁ♪」
「本当だ、ふわふわだな〜コイツ」

二人はケージに入った小さな子チョコボをしばらく眺めていたが、約一名未だこっちに来ない人物を思い出し辺りを見回した。

「あれ?スコールがいないぞ」
「ちょ、ちょっとあれ…」

ジタンが指差す方向にスコールはいたのだが、背中しか見えない。
背の高いスコールに見え隠れしてよく解らなかったが、どうやら二人組の女性に話しかけられている様子が伺える。

「何だ?道でも聞かれてんのか?」
「バカだなぁ、あれはどう見てもナンパだろ」

さすがにスコールからナンパ…は有り得ないので、女性達からのいわゆる逆ナンだろう…と、いうのがジタンの見解だった。

当のスコールは後ろ姿だったが珍しく焦ってます感を漂わせ、きょろきょろと二人を探し助けを求めている様で…。
その間も、女性達はしきりにスコールに話しかけており一向に止む気配は無い。

「面白いからしばらく見てようかvv」
「やー…でもそろそろ映画館行かねぇと…」

いっちょ助けに行くか!と、女性絡みにやたら張り切るジタンだったがバッツはちょっと…と、ペットショップ横の路地にジタンを誘導する。

「何だよ、早く行かないと…」
「なぁ、普通に行っても面白くないからさ…」

ゴニョゴニョとジタンに伝えるも、曇った表情で即「却下」と返ってきたが、それでも引き下がらないバッツは言葉を続ける。

「えーいいじゃん。元演劇部の実力を見せてくれよ〜」
「う…それを言われると…」

演者としての血が騒ぐ…。
学校で演劇部に所属し、意外と真面目に励んでいたジタンはそれを言われると弱い…。
何となくバッツに乗せられた気もするが、とりあえず了承し準備に取りかかる。

「んじゃ、髪は下ろしてた方がいいな!」
「…へいへい。でもさ、服でバレないか?」
「大丈夫、大丈夫」

今日のジタンは、ジーンズにパーカーと至ってシンプルな服装だった為、本当に大丈夫なのかとも思ったが、取りあえず後ろで縛っていた髪をほどき整える。
そんな姿を頭から足先まで眺め「うんうん」と頷くバッツはニヤニヤと楽しそうだ。

『やっぱりやめようかな…』と、ジタンは一瞬思い止まったが、早くしないと映画も始まってしまうし…何よりスコールが不憫でならない。
きっとクールな顔をしてても、内心大汗をかいているに決まってる。

「んじゃ、ちょっと行ってくるぜ」
「頑張れよ〜大丈夫!どこから見ても美少女だ(笑)」

ぶんぶんと大きく手を振るバッツを振り返りざまにキッと睨み、ジタンは女豹…ではなく女性の群れ(二人だけど)に囲まれた獅子を助けに向かう。

「上手くいくといいなぁ…な?」

バッツはガラス越しの子チョコボに向かって、小さく手を振るのだった。



***



スコールは困っていた。

こういう事は今まで無かった訳じゃない…が、今日の女性達は勢いがあるというか…あまりにも積極的過ぎてスコールに喋るスキを与えない。

こういう時は口の上手いジタンにでもまかせて、自分は静かにフェードアウトしたい気分だったが、肝心な時に見当たらない。
暫く平静を装っていたが、そろそろ限界が近付いてきた…。

「と、言うわけで!私達とカラオケにでも行きませんか?」
「い、いや俺は…」

遠慮する…と、後退りをした瞬間、右腕にずしりと重みを感じよろける。
見るとそこには、ニコニコと満面の笑顔でスコールの腕にしがみついているジタンがいた。
しかもご丁寧に髪まで解き、長い金髪が風になびいて…。

「スコール、お待たせ!ゴメンね、遅くなって!!」
「え?あ、あぁ…(は??)」

まるで甘えるかの様に腕に擦り寄っていたジタンだったが、言葉も出ずポカンとしているスコールに業を煮やし、彼の右足を思いっ切り踏みつけた。

「いっ…!!!?」
「さぁ、早く行かないと映画が始まっちゃうvv(いつまでボケてる気だよっ!)」
「お、おい…」

じゃあ失礼〜と、半ば強引にスコールを引きずりながら女性達から離れ、先程の路地に連れて行く。
するとそこには腹を抱え、半ば涙目でひーひー笑っているバッツの姿があった。

「てめっ…!笑い過ぎだろ!!お前が言った案なんだぞ!」
「だって…あのスコールの顔…!」
「………(助けてくれた…のか?)」

要するにジタンはバッツの口車に乗せられ、自分を助けるのにわざわざ女性役をした…と、スコールは頭の中でようやく理解した。

「だから普通でいいってのに…」
「でも、可愛かったからいいじゃん」
「どこが!キモチワルイだけだって…」

そんな二人のやりとりを眺め、先程の光景をスコールは思い出す。
髪も下ろし、口調や仕草も普段と違うため確かに…可愛かった様な…気がする。
あまりにも普段と違う姿に、つい見とれてしまい呆けてた訳だが…。

「ほら、スコールもそう思うだろ?」
「あ、いや…その…そ、そうだな…」
「だってさ☆」
「何だよ、スコールまで…!」

もう、行くぞ!と、ジタンは頬を膨らましながら、一人混みの中へ大股でずんずん歩いていく。
髪の毛はそのままのせいか、若干男らしい後ろ姿にやや違和感を感じる。

「怒らせてしまったか…?」
「あれは照れてるだけだって!」

二人もジタンの後をついて行くが、急にバッツが歩みを止め前方を指差す。
するとそこには、見知らぬ男性に声をかけられているジタンの姿があった。

「ありゃ、今度はジタンがナンパされてる…?まぁ、あの姿じゃ勘違いされるか」

しきりにジタンの肩に手をかけ話しかけている男性に、きっとウンザリ&怒り心頭している事だろう…。

「どうする?今度はスコールが助けに行くか?彼氏登場って…さ」
「なっ…!?」
「嫌なら俺が行って来るけど…」

いいのかな〜と、悪戯な笑みを送って来るバッツについ「俺が行く」と言ってしまい、スコールは拳を握りしめ、緊張した面持ちで一歩踏み出す。

が、瞬間…スコールの視線の先には腹にエルボーをキメられ崩れ込む勘違い男の姿と、肩を怒らせ更に前へ歩き、人混みに消えるジタンの姿が見えた。

「………」
「あー…流石ジタン、自分で撃退しちゃったよ」

「残念だったな!」と、言うバッツのセリフを聞き流し…ただただ、呆然と立ち尽くすスコールだった。

『俺のこの拳はどうしたら…!!』


〜fin〜


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2012 3.17 UP
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