希望
※59

月の渓谷、辺りは暗いが満点の星空がとても綺麗で癒される場所だ。
戦闘も一段落し、俺とバッツは岩場の陰で小さな焚き火を囲み暖をとっていた。

この世界に来てから色んな事が有り過ぎて、正直しんどい時もあるけれど、女神様が自分達に託した希望だけは成し遂げたいと思う…思うけど…重い…。

「バッツ重い!!」
「いてっ!」

いつの間にか背中にへばりついていた仲間を思いっ切り跳ね除けた。
大げさに倒れこむバッツに、とりあえず呆れた視線を送っておく。
どういう訳かウマが合うというか…気が合うのか、俺はこのバッツと行動を共にしている事が多いのだが…。
最近、何故かべったりとスキンシップが過度で…気が付くとかなり近くに居る事が多い。
初めは驚いたが、今やすっかり慣れてしまった…いや慣らされたのかも?

軽くなった身体を伸ばし、空を見上げながら色々な思いが頭を巡る。
俺達は元々の記憶も曖昧で、尚且つ世界を混沌から救うという命を受け入れた訳だが…正直普通?だったら途方に暮れるレベルだ。
まぁ、困ってるレディがいたら助けるのが俺の信条だし…。
理由なんてそんなに必要ないだろ?
以前そんな事を言ったらバッツは「そうだよな!」とニコニコしながら頷いていたっけか…。

先程、跳ね除けた仲間は尻餅をついてしばし俺と同じ様に天を仰いでいたが、またそろそろと近付いて来た。

気にせず胡座をかいて座り直し、俺は目の前の小さな焚き火をじっと眺める。
暖かな温もり、自分の居た世界でもこんな旅をしていた…様な気がする。
風景や仲間の顔がうっすらと思い出されるが、映像はまるで霧がかかっているかの如く鮮明ではない為どうもスッキリしない。

ぼんやりと元の世界の事を考えていたらまたもや背中に重みを感じた。

「だから、重いって…」
「ちょっとだけ」

そう言って妙に優しく後ろからぎゅうっと抱きしめられる。
何なんだ…全く…と心の中で呆れたセリフを吐くが、反して何だか胸の鼓動が早くなってきた。
顔も何だか火照って、尻尾もせわしなくぱたぱた動き出す。
おかしいな…俺、どうかしちまったのかな…。

「なぁ…俺なんか抱きしめて楽しいか?」
「楽しい…と、いうか嬉しいかも」
「…何で?」

へへっと笑いながら、バッツは俺の頭上に顎を乗っける。

「えー言おうかな〜どーしよっかな〜…」

しばし静寂が流れたがその間も腕の力は緩められない、むしろ強くなってきた。

「もしかして…もしかするとだぞ…俺の事好きになっちゃったりする?」
「……当たり!よく解ったな」

俺に言わせんなよ!と、半ば照れ隠しにバッツの腕から脱出しようと暴れてみる。
が、ガッチリとホールドされ動けない。
結局、無駄な労力に終わったため、諦めた俺はそのままじっと焚き火より暖かい温もりに身を委ねた。

「あーモテる男は辛いぜ…」
「うんうん」

きっと頭上ではニコニコ笑っているに違いない。
何だかこの状況を認めたくない気持ちが沸々してきた俺は、自分の口元にあるヤツの腕に軽く噛み付いた。
いつもだと盛大なリアクションが返ってくるのだが…静かに、俺の髪に顔を埋めながらそっと呟く。

「いつまで一緒にいられるか解らないし…今は、今だけはこうさせて」
「………」

俺はヤツの腕からそっと口を離し、付けた歯型に唇を寄せる。
あぁ、もう本当に…モテる男は辛いっての!


〜fin〜


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2012 3.22 UP
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