railway
※59現パロ
Be happy together
ちょっとずつお近付き

朝、マンションのエントランスで待ち合わせをした俺達は、いつもの様に並んで駅まで歩いて行く。
大体話す内容は、昨日のテレビの話やら宿題の事が多く、俺の朝の楽しみのひとつだ。

身長差があるせいか、俺を見上げながら話すジタンの姿はここ数年変わりない。
本人から『バッツやスコールばかり伸びやがって…!不公平だ!!』等と、よく睨まれたものだ。

身長に関しては…小学校の時は俺とジタン、さほど変わらなかった気もするが、中学ぐらいから俺の方が圧倒的に伸びだした。
こればっかりはどうしようもないので、言われる度にコメントに困る。

正直、自分より眼下に見えるジタンの姿が俺は大好きだったりする。
上目づかいも、風で揺れる髪の毛もとても綺麗だし。
本人に言おうものなら拳でどつかれること間違いなしなので、黙って心の中で思うだけ。
つい、頭のてっぺんに手を置きたくなる衝動を抑えながら、俺達は駅の改札口を抜けた。



***



「うわっ、今日何かすごく混んでないか?」

珍しくホームを埋める人混みにウンザリしつつ、俺達は列に並ぶ。
周りの人々も同じ気持ちなのか、乗り込む前から皆、表情が疲労困憊だ。
暫くするといつもの電車が滑り込み、列も少しずつ動き出す。

「よしっ!突撃するぞ、ジタン」
「鞄持ってかれない様にしようぜ」

二人で鞄を抱え込み順番に車内に入って行く。
さほど長く乗る訳でも無いのであまり奥に行きたくなかったが、人の流れに乗ったら反対のドア付近まで押された。
俺は片手でカバンを抱えつつ、もう片手で何とか吊革に掴まる事が出来たが、ジタンの姿が見えない。

「ぐ、ぐるじい…」

俺と他の乗客の間にサンドイッチ状態のジタンが悲鳴が上げる。
あああ、ちょっと潰されかかってるんじゃ…!

「大丈夫か?ジタン、もうちょっとこっちに…」
「……おう」

ジタンの腕を掴み、自分とドアのちょっとした隙間に誘導する。
げんなりした表情のジタンが体勢を整え、鞄を肩にかけ直す。

暫くして電車は出発したが、ガタゴトと少し揺れる車内は足元が不安定で、俺は吊革を握りしめ何とか耐える。

ジタンは足を開いて何とか踏ん張っている様だが、微妙にフラフラと揺れちょっと危なっかしい。
どうせなら俺に掴まってくれてもいいんだけど…。

「なぁ、俺に掴まれば?危ないぜ」

転びそうだもん、と言う俺の顔をジタンがじーっと見上げてきた。
あ、やっぱりイイな…。
ちょっとニヤけそうになった俺に返ってきたセリフは…。

「やだ。どうせなら可愛いコに掴まりたい」

そうですか、そうですか…。
大体掴まってとしても、女子が男子を支えられますかねー。
ま、ジタンなら可能かもしれないけど。

声に出さずに悪態を付くが、当のジタンの顔は下を向いて見えない。
さすがの俺も、ちょっとガックリきた…。

「だからさ…」

小さい声でジタンが呟く。
え?何??

「逆にバッツが俺を掴んでてくれよ」

……はい?
ぽかんとしてると『俺は可愛くはないけどさ!』と、睨んで付け足す。
頬がちょっと赤くなっているジタンを見てようやく思考が繋がった。

「はいはい〜了解!」

俺は嬉しくなって腕を伸ばし、そっとジタンの肩を抱いて自分の方へ寄せた。
ぎょっとした表情のジタンが見えたけど…気にしないぞ。

「!近いし!!何か支え方おかしくないか?!」
「だって、転んだら危ないじゃないか」

身をよじって逃げようとするジタンを今度は両手でぎゅうっと抱きしめ、胸の中に収めた。
(押さえ込んでいるみたいだけど)
混雑している車内に俺の腕、逃げ場は無いと観念したのか大人しくなったジタンの『さっきと同じで苦しいじゃんか…』と、いう小さな声が聞こえた。

「うん…ごめん」

電車は相変わらずガタゴトと揺れている。
駅はもうすぐだけど、あと少しだけこのままでいたい…たまの混雑も悪くないもんだなぁ。
目の前にあるジタンの頭に顎を乗せるとまたもや非難の声が聞こえてきたけど、それもすぐに止んだ。

そんな自分的幸せタイムを満喫している内に、学校がある最寄りの駅に到着した。
あ〜あ、残念…。
もぞもぞと動くジタンが俺の腕からするりと逃れ、先に降りようとする。
その瞬間、他の降車する乗客の波に埋もれてしまった。

「〜〜〜っつ!」
「ジタン!!」

咄嗟に俺は人混みの中に手を突っ込み、ジタンの手を掴む。
倒れそうになっていたのか、力を込めて握り返してきた。
もみくちゃにされながら、二人でどうにかホームへ降りることが出来たが、凄まじいな…やっぱり。

「大丈夫だったか?」

左手で鞄を持ち、右手でがっちりジタンの左手を握りしめたまま俺はジタンを見る。
当のジタンは俯いたままだったが、やがてぽつりと…。

「……助かった、ありがとな」
「へ?あ、うん」

まさかお礼を言われるなんて思ってなかった。
嬉しかった俺はそのまま歩き出そうとしたが、ぐいっと右手が引っ張られ前に進めない。
後ろを振り返ると、そこには繋がった手と真っ赤な顔したジタンが目に入った。

「…手、離せってば」
「何で??」
「…学校のヤツに見られたらどうするんだよ!」
「別にいいじゃん」
「よくない!!」

離せ、離さないの攻防を繰り広げ、最終的に隙を見て手を離す事に成功したジタンは、一目散に走ってホームを駆け下りて行った。
呆然とする俺の右手にはまだ感触が残っていて…もちろん、さっきの胸の中の温かさも…。

「ジタン、待ってくれ〜!」

後を追う様に自分もホームを駆け下りていった。
すでに改札を抜けたらしくジタンの姿は見えなかったが、見つけたらまたさっきみたいに抱きしめてみようかな…懲りない俺は右手を握りしめて走り出す。


〜続く〜


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2012 1.26 UP
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