雨傘
※89
現パロ
高校生位で
初夏の小話

「あちゃー傘忘れた」
「雨か…」

ジタンが下駄箱から靴を取りだし外へ出ると、ポツリと雨が降り出してきた。
天気予報は晴れと言っていなかったっけ?
唇を尖らせながらジタンは空に向かって文句を言う。

隣に居たスコールが自身の鞄を開け、中から折りたたみ傘を取り出す。

「入るか?」
「意外と用意いいなースコール。んじゃ遠慮無く…」
「意外は余計だ」
「あはは、悪い」

雨音は徐々に激しくなり、折りたたみ傘故に少々狭いが、肩を並べ駅までの道を歩いていく。

「スコール、ごめんな。傘持ってもらっちゃって」
「…いや(身長的に俺が持った方が…と、言ったら怒るだろうか)」

傘からはみ出たジタンの肩が濡れている。
気を使っているのか、身体半分程外に出ている様だ。

「ジタン、もう少し中に入れ」
「ん?あぁ、大丈夫だって」
「風邪をひくぞ」

スコールはぐいっとジタンのもう片方の肩を引っ張った。
身体は先程より傘の内部におさまる。
代わりにスコールが少し外側にはみ出てしまったが…。

「スコールが濡れんぞ?」
「大丈夫だ」
「風邪引いちゃうぜ?」

会話の繰り返しが可笑しくなって、二人で顔を見合わせれば、自然と笑みがこぼれる。

他愛のない話をしながら歩いていくと、ようやく駅が見えてきた。
信号を渡り、改札が見えてきた。

「ありがとな!スコール」

互いの身体が離れていく。
もう少し一緒に歩きたかった気もするが…スコールは名残惜しい気持ちを傘と一緒に仕舞い込む。

ホームへ向かうと、ちょうど各校下校時刻らしく色んな制服が目立つ。
その中で、可愛らしいチェックのスカートの女子高生二人組と目が合った。
何やらこちらを見てこそこそ話をしている様だ。

「あの二人組、スコールの事見てるぜ〜」
「…俺はジタンを見ていると思うのだが」

まっさか〜とヘラヘラ笑うジタンは満更でも無い様子だ。
自分で言ったセリフなのに、何だか面白くない気分になったスコールは、二人の女子高生からの視線を遮る様にジタンの横に立つ。

不思議そうな表情のジタンだったが、電車が到着したため乗り込む。
運良く座れたが二人は無言のままだった。
こんな時、ジタンの方がよく喋りかけてくるハズだが、何故か大人しい。

ふと、肩に重みを感じたスコールは視線を向けると、見慣れた金色の髪がそこにあった。
どうやらジタンは眠ってしまったらしい。

すやすやと規則正しい寝息を聞いたいたら、スコール自身も眠気に襲われた。
電車の揺れと肩に感じる暖かさも相まって、そのまま瞳を閉じる。

…どれ位経っただろうか。
駅のアナウンスにハッとし、ジタンの肩を揺する。

「おい、着いたぞ。起きろ」
「え〜…?」

半ば引きずる様にジタンを電車から降ろし、一息つく。

「乗り過ごすところだったな…」

ドアが閉まり、走って行く電車を見ながらスコールが呟く。
周囲の視界が開け、辺りを見るといつもの駅と違う事に気が付いた。

「何だよスコール、ひとつ前の駅じゃんか〜」
「……あ」

スコールでもこんな事あるんだな!などと笑いながら言われ、当の本人はちょっと恥ずかしくなったが、いつものクールな表情は崩さない。

「うーん…次の電車が来るまで時間あるなぁ…」

ホームの時刻表を見ながらジタンしばらくは考え込んでいたが、急にくるりとスコールの方へ振り向き、にんまりと笑う。

「たまにはひと駅歩いてみる?また相合傘で」
「あ、あぁ…」

改札を出て、線路沿いに進んでいく。
時々ジタンは水たまりを軽く蹴り上げながら、機嫌良く歩いていた。

「すまない」
「何が?」
「その…雨の中歩く羽目になって…」
「俺は結構楽しいぜ〜あ、でも…スコールにずっと傘持ちさせちゃってゴメンな」

俺じゃスコールまで届かねぇし…小さく呟いたジタンのセリフを聞き逃さなかったスコールの脳内で、一生懸命背伸びをして何とか自分を傘に入れようとしているジタンの姿が浮かんだ。

「おい…今何かヘンな想像したろ」
「い、いや…」
「嘘つけ、わかるんだぞ」

肘で小突かれ、よろめいたスコールは傘からはみ出たが、先程まで感じていた冷たい雨が降ってこない。
いつの間にか雨は止み、少しずつ雲が晴れてきていた。
スコールは傘を閉じ、横にいるジタンを見れば不服そうな顔。

「ありゃ、もうちょっと相合傘楽しみたかったな…」

自分も同じ気持ちだとは言えず、スコールは傘を軽く振りながら道を進んで行く。

「でも、イイもの見っけ!」

そう言ってジタンが指を指した方向には、綺麗な虹が見えた。

「ひと駅歩いてラッキーだったかも」
「そうだな…」

少しずつ出てきた日差しのせいか、周囲が蒸し暑さが増す。

「よし、傘のお礼にジュースでも奢っちゃおうかな〜」
「珍しいな…また雨が降るんじゃないか?」
「む。そうしたら…またスコールに入れてもらうからな」

太陽に照らされキラキラした水たまりを避けながら、ジタンは軽やかに線路沿いの道を進んで行く。
目的の駅はもうすぐだ。


〜fin〜


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2012 5.3 UP
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