どちらもしあわせ
※59
現パロ
ほのぼの?
お鍋の美味しい季節

アルバイトを終え、バッツは電車に乗り込む。
段々と寒くなるこの季節、車内の暖かさが冷えた指をじんわり包んでいく。

『夕飯どうしよっかな…』

吊革に掴まり、ぼんやり車窓からの景色を眺めながら考える。
空は夕焼け、じきに暗くなるだろう。

『給料前だしなぁ…買い置きのカップラーメンでいいか』

こんな時、一人暮らしのちょっぴり寂しさを感じるディナーにため息を吐く。
でもあのラーメン美味しいから!と、心の中で納得させる。

ふと思い出し上着のポケットから携帯を出せば、画面は真っ黒…どうやら電池が切れた様だ。
携帯を持ってはいるが、あまりマメに見ないためこういう事はよくある。
おかげで友人達にはよく「連絡取れない!」と怒られるのだが。

『ま、もうすぐ家だし』

さほど気にも止めずまたポケットに戻す。
最寄りの駅はもう次だ。

改札を出て、賑わう商店街を抜けて行く。
惣菜店から良い匂いが鼻をくすぐるが、我慢、我慢…と言い聞かせ足早に駆け抜ける。

自分の城である少々古い二階建てのアパートは、夕焼けを浴びて更にレトロ感を増していた。
気に入っているけど錆びた階段を上る度、軋む音に毎日ドキドキする。
無事、自室に辿り着き鍵をドアに差し込むも、手ごたえが無い。

「あれ?」

ドアは既に開いていた。

しかも部屋の電気まで点いている。
そ〜っとドアを開けると玄関には見慣れた靴。
そのまま視線を上に上げると、睨みをきかせ腕を組んで仁王立ちのジタンと目が合った。

「おい!携帯の電源また切れてただろ!!」

『開口一番に怒んないでよ!「お帰り」とかあるでしょー』と、心の中でバッツは思ったが口には出さず…。

「ごめん、まさか来てるとは思わなくて…」

申し訳なさそうに頭を掻く。
聞けば昼頃からずっと携帯に連絡をしていたらしい。
何度かけてもお決まりのメッセージが流れるだけなので、いい加減痺れを切らしバッツのアパートに押しかけたらしい。

「バイト早番だって聞いてたけど、給料前だから真っ直ぐ帰って来ると思ったからさ」
「ジタン、素晴らしい読みだな〜」

呆れ顔のジタンに対し、満面の笑顔で感心するバッツ。

予期せぬ嬉しい訪問者に機嫌良く部屋に入れば、台所のシンクの上に肉やら野菜やらが置いてある。

「どうしたの?これ」

ジタンは呆れ顔から一転、フフンと鼻を鳴らし得意気な顔をする。

「給料日前の寂しい夕飯だと思ってさ、鍋の材料を買ってきたんだ」
「…マジか!!ジタンかっこいい!」

更に目をキラキラさせているバッツの姿に満足そうに頷くと、ジタンはバッツの目の前に白菜を突き付けた。

「んじゃ、ちゃっちゃっと切ろうぜー」
「了解!」

自炊はさほど苦手では無い二人は手際よく準備を始めた。
が、バッツの家にはカセットコンロなどは無いので、台所のガス台で調理をする。
狭い台所故、必然的に二人仲良く並んでしまう。

「こういうの、いいなぁ…」

クツクツと煮立った鍋に食材を投入しながらしみじみとバッツは呟く。

「何が?」
「ほら、こんな風に一緒に並んで料理って…ベタだけど新婚さ…ぐふっ!」

その後の言葉の続きは、バッツの脇腹にキメたジタンの肘打ちによって打ち消された。

「アホな事言ってないで、きちんと見てろよ鍋奉行!」
「い、痛い…分かった、分かった」

ヒットした脇腹を抑え、涙目になりながら菜箸で中身の様子を伺う。
湯気の向こうに美味しそうな食材…そろそろ完成に近い。
振り返れば、いそいそと居間のテーブルの上を片付けるジタンの姿。
うん、やっぱりいいな!と、小さく呟くバッツだった。

「「いただきまーす!」」

手を合わせようやく夕食が始まる。
温かい食事と弾む会話に、バッツの頬は緩みっぱなしだ。

「バッツ気持ち悪い…食うかニヤけるかどっちかにしろよ」
「いやー何だか幸せ感じちゃって」

こういうの嬉しいんだよ…と、言い野菜を口に入れる。
その後も楽しそうに話すバッツに、ジタンは時折ツッコミを入れながら自分も食事を進めていった。

『…良かったよ、喜んでくれて』

「ん?何か言ったかジタン」
「何でもない!」

少し頬が赤くなっているのは、食べている鍋が熱いせいじゃないはずだ…ジタンは慌てて
手で仰ぐのだった。


〜fin〜


*食後のおまけ*

「アイスとかも買って来れば良かったな〜」
「食後のデザートか…俺はジタンでい…ごふっ!」

ジタンのチョップがバッツの頭を直撃、そして一言。

「俺はデザート扱いか!」
「ちょっ、違う!メイン、メインです〜!!」

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2011 12.14 UP
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