恋愛マスター ※59 お悩み相談室 |
「はぁ…」 皆、それぞれの時間を過ごすキャンプから離れ、バッツは適当に草むらに寝転ぶ。 空を見渡せば、戦闘中という事を忘れそうになるほど綺麗な青空。 だが、正反対にバッツの心の中はもやもやとすっきりしない。 それはこの戦いの始まりから続くもので、原因は自分でもわかっているのだが…。 静かに目を閉じ、気持ちを落ち着けていても浮かんでくるのは悩みのタネというか何というか…。 「はぁ…」 「ため息二回目、どうした?」 不意に頭の上から声をかけられ、ハッと目を開ける。 そこには両手にカップを持ち、不思議そうにバッツを覗き込むジタンが立っていた。 「何一人で難しい顔してるんだよ…これ飲んで落ち着けって」 起き上がり、差し出されたカップを受け取ると、暖かな湯気と紅茶の良い香りが鼻をくすぐる。 「サンキュ」 「蜂蜜入れたから、ちょっと甘いぞ」 一口含み、その甘さを確かめる。 ほんのりと感じる程度だが、丁度良い。 バッツの隣に腰を下ろしたジタンも、紅茶をすすり一息着いた。 「で、何をそんなに悩んでるんだよ。らしくねーなぁ」 「悩み…って言うのかねぇ…」 「じゃあ、腹でも痛いのか?また変なモン食った??」 「…何でそうなるの、しかも『また』って。いや、その…何、少し気になる人がいるというか…」 「?!!」 キラーンと、ジタンの目が輝きだす。 同時に尻尾もピン、と伸びたのを見てバッツはクスッと笑う。 「バッツにもそういう気持ちが芽生えるとは…それで悶々としてたんだなー!」 「え、えーと…自分でもどうしていいのか分からくてさ」 「そういう事は、この恋愛マスターである俺に聞いてくれよ」 「マスター?ジタンが??」 「いいから、いいから…で、相手は誰なんだ?ここは圧倒的に女子不足だから、俺すぐに分かっちゃうかもしれねーぞ」 その手の話に人一倍盛り上がるジタンを見ながら、バッツはまた紅茶を一口飲み、空を仰ぐ。 「…その人はとても明るくて、いつも元気で…傍にいるだけで俺は嬉しくなってしまうんだ」 「うんうん」 「とても強い人だと思う…でも、あまり心の奥を見せてくれない。少しは頼ってくれてもいいのにさ」 「ふぅん…」 「気が付いたら、いつも目で追ってた。触れたいなっていつも考えてばかり…おかしいかな?」 「……」 「あ、でも尻尾は触っちゃったけど」 「………尻尾…」 「……うん」 「……」 しばらく無言で佇む二人に、そよそよと風が吹く。 バッツは横に座るジタンの顔を覗き込み、うーん…と、考え込むポーズをとる。 「あとはそうだな…可愛い顔してるのに、中身がおっさんなところも好きかな」 「誰がおっさんだ!格好良いとかあるだろ!!」 「えー…」 ジタンは顔を赤くしながら一気に紅茶を飲み干し、勢い良く立ち上がる。 「…マスターからのアドバイスは…捕まえられるまでと、とにかく頑張れって事だ。努力を怠ると大変なんだからな!」 「OK、あの手この手を使って頑張るよ」 「ふん…そいつは多分手強いぞ」 「心得ております」 勢いよく立ち上がり、そのまま走って行こうとするジタンに手を伸ばせば、するりと尻尾を掠めるだけ。 「逃げ足速いんだから…」 さて、これからどうしようか…ゆっくりと立ち上がったバッツは、残りの紅茶を飲み干した。 底に溜まっていたのか蜂蜜の甘さが一気に押し寄せ、少し咽そうになりながらもジタンの逃げた方向へ大声で叫ぶ。 「…これよりもっと甘い生活にしてやるからなー!」 〜fin〜 - - - - - - - - - - 2014 5.14 UP |