Moonlight
※9`+589
ほぼ9兄弟
みんなだいすき9さん

「月、綺麗だなぁ…こんな夜は可愛いコとデートでも…って、やっぱり痛てぇ…」

満月が周囲を照らしても尚暗い森の中、ジタンはずるずると足を引き摺りながら進んで行く。
先程、イミテーションとの戦闘で負傷した脇腹から激痛が走り、思わず出てしまう唸り声。
楽しい事でも考えれば紛れるかと思ったが、じんじんと焼ける様な痛みは確実にジタンの体力を奪っていった。

「やば、ちょっと休憩…」

ガクッと膝が落ち、その場に倒れ込む。
冷たい土が心地よいと感じてしまうのは、熱でも出てきたのだろうか…ぼんやりと横たわるジタンはそっと目を閉じた。

(いや、このまま寝たら二度と起きれない気がするぞ)

気合いを入れてゆっくりと立ち上がる。
脇腹の痛みに歯を食いしばりながら、一歩を踏み出した。
帰りたい、皆の元へ。
あの二人のところへ。
こんな姿見せたら心配させてしまうかもしれない…でも、でも…。

「帰りたいんだ…」
「帰るって何処にだい?」
「そりゃ可愛いコの側も良いけど、今はあいつらの所に決まってるだろう…ん?」
「ふーん、そう。君にしては珍しいねぇ」

一瞬、動きが止まったジタンは、聞き覚えのある声に恐る恐る振り返る。
そこには月明かりを背に、クジャが銀髪を靡かせながらふわりと宙から降りてきた。

「…な、何でお前がいるんだよ!っつ、いててて…」
「それはこっちの台詞だよ、せっかくの散歩が台無しだ。」

怪我を悟られまいと、痛む脇腹を隠しながら武器を構えるジタンの姿を眺め、クジャは大袈裟に溜め息をひとつ吐く。

「全く…僕以外の奴にやられるなんて、情けないにも程があるよ」
「う、うるさい!」

(やば、バレてた…どうする…)

「せっかく良い気分で満月の夜を楽しんでいたのに…」
「それなら無視してくれてもいいんだけど?」
「ふん、そういう訳にはいかないだろう」
「…だろうな」

やはり戦うのか…そうだろうな、見逃すなんて事をする訳がない…ジタンは武器を握る手に力を込めた。

(くそ、怪我さえしてなきゃな…)

戦闘モード全開でクジャを睨み付けるジタンに対し、クジャは変わらず涼しい表情のままだ。

(余裕って感じ…か)

傷の痛みと緊張からか、全身が汗ばんでいくのが解る。
ジタンはじりじりと間合いを詰めていく…が、クジャは一向に動く気配が無い。
ただ、こちらをじっと見つめる…それだけだ。

「ねぇ」
「…何だよ、お前やる気あんのか?構えろよ」
「脱いで」
「……は?」

(えーと、今何て…)

「二度も言わせないでおくれよ。ほら、さっさとその汚れた服を脱いで」
「……」

面倒臭いなぁ…と、言いたげにスッとジタンの目の前に来たクジャは、傷を隠す手をどかし、うっすらと血が滲んだシャツを力強く引っ張った。
ボタンが一個、二個と外れ、草むらへ落ちていく。

「ちょっ、ちょっとこの服気に入っているヤツ…って、待て…おい!こら離せ!!」
「煩いねぇ…傷、痛むんだろう?」
「えっ…?」
「ベストも邪魔」

苛立たれると面倒だと思い、ジタンは渋々スカーフを解き、ベスト、シャツのボタンを外していく。

「な、なぁ…そんな大した怪我じゃ…」
「いいから早く」
「分かった、分かったから服を引っ張るなー!」

(何だよ…調子狂うなぁ)

ジタンは今度こそ大人しくシャツをそっと捲り、傷口を見せる。

「最初から素直に言うこと聞けばいいものの…ま、君らしいけど」
「うるせ…わっ」

瞬間、クジャの手から光が放たれ、ジタンは目を瞑った。
普段の戦闘で見る禍々しい黒魔法とは違う暖かな光。
同時に脇腹に感じていた痛みがゆっくりと消えていくのが分かった。

「多少跡は残るだろうけどね。ま、こんなもんか」
「……」
「何だい、何か言いたそうだけど」

ジタンは首を思いっ切り横に振る。

(あんな優しい魔法も使えたんだな…何て、言わない方がいいか)

「あ、クジャ…その…ありがとうな」
「君が礼なんて気持ち悪い…ふん、どうせ戦うならお互いベストの状態がいい…そう思っただけさ」
「お、おう…」
「二度目はないよ」

キッと鋭い視線を送るクジャにジタンは笑顔で頷く。

「解ってる。もう行くのか?今日は…」
「戦わないよ、そんな気分じゃないし…それに、自分の身が惜しいからね」
「?」
「ほら、あそこ」

クジャが指を差した方向には見覚えのある二人の姿。
暗がりの中でも騒がしくこちらに向かって走って来るのが分かる。

「バッツ、スコール…」
「君を探しに来たんだろうね、愛されてるじゃないか」
「……」
「ふふ、たまには彼らに甘えてみたらどうだい。帰りたかったんだろう?あの二人のところに」

ふわりと宙に浮いたクジャはいたずらな笑みを浮かべながら、ジタンの鼻を掠めるギリギリの所まで顔を近付ける。

(?!)

そのまますぐに離れ、満月の方向へと消えていった。
立ち尽くすジタンは、ざわざわと風に揺れる木々の音と共に、背後から自分を呼ぶ声が聞こえハッとする。
バッツは大きく手を振りながら、スコールは武器を構えながら足早に向かって来た。

「ジターン!大丈夫かー!!…ちょ、何、その格好!」
「なっ…」
「何が?」

ジタンは、思いっ切り服がはだけた自分の姿にはっとする。

「いや、これは…」
「あいつ俺の…じゃなくて、俺らのジタンに変な事しやがってー…!」
「……?!」
「違うから、全く変な事されてないから!」
「全く、逃げ足の早いヤツだぜ」

(聞けよ!)

ぎゃあぎゃあ騒ぐバッツと、赤くなったり青くなったりしているスコールに説明しようにも、ジタンの声は中々二人に届かない。

「だって、さっきもチュウしようとしてたじゃん!」
「…な?!そうなのか、ジタン」
「してないし!お前ら話を聞けー!!」

(やっと帰れたのに…あぁ、もう…しょうがねぇなぁ!)


〜fin〜


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2014 3.10 UP
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