擦り傷
※5+9
あやしいおくすり

「だーかーら大丈夫だって!」
「またそうやって…バイ菌でも入ったらどうすんだよ」
「大した傷じゃないし」
「腕、擦り傷だらけじゃんか…ほら」

先程の戦闘で、細かい傷を負ったジタンの両腕はダメージは少ないにしろ、見ていて大変痛々しい。
先程から何度もバッツはポーションを渡そうとするが、勿体無い!と、ジタンは突き返す。

「もー…ジタンったら頑固オヤジだなぁ」
「誰がオヤジだ。俺はバッツより若者だっつーの」
「んじゃ、歳上のお兄さんの言う事は聞きなさい」

再度渡そうとするも、首を横に振るジタンにバッツは肩を落としながらため息をひとつ吐く。
しょんぼりした姿に、ジタンもちょっと心が痛んだ。
…でも今更貰うのもなぁ…とでも考えているのか、尻尾がせわしなく動き落ち着かない。

暫しの沈黙の後、何かをひらめいたのか、バッツは荷物の袋を漁り始めた。

「それじゃこれは?」

奥から取り出した小さな軟膏瓶をジタンに渡す。

「これは…塗り薬…?」
「そう、俺が作ったんだ。傷によく効くぞ〜」
「いつの間に…」
「ん?それはこの世界に来た時にちょいちょいっと…な。ようやく役に立つ時が来たぜ」

得意気な顔を見せるバッツ。
ジタンは手の中の軟膏瓶を握り締め、小さく「ありがとう」と、呟く。
本当は気遣ってくれる気持ちが嬉しいのに、何で自分はこうも変な意地を張ってしまうのか…。

「いいって、よーく塗り込んでな」
「おう」

ほんのり暖かな気持ちがジタンの胸に広がっていく…が、蓋を開けた瞬間、凄まじい刺激臭が鼻を襲う。

「ぐえええ…!何だよこれ!!」
「だからー傷薬だって」

バッツは人差し指で軟膏をすくい、傷だらけのジタンの腕にサッと塗る。
途端に何とも言えない未知の臭いが、腕から全身を包む。

「うっ…いやそのバッツ…やっぱり…」
「遠慮すんなって!」

反対の腕にも素早く塗られ、ジタンは頭から尻尾の先まで震え上がった。

(コレ何が入ってるんだよ〜?!!)

文句のひとつでも言いたい所だが、ご機嫌なバッツの顔を見ると、つい言葉を飲み込んでしまう。

「うぅ…これじゃ女の子達が逃げる…」
「何言ってるんだジタン、この世界に女の子はそんなにいないぞ?」
「………(それはそうなんだけどさー…元の世界に帰っても臭ってたらどうしよう…)」

がっくりと項垂れるジタンの横で、バッツは鼻歌交じりで薬を塗っていく。
極力息を止めながら、ジタンは素直にポーションにしておけば良かった…と、後悔するのだった。


〜fin〜


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2013 9.30 UP
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