「リオ、クロソフィの花はあっちにおいてくれる?」
「ここ…?」
「うん、ガーベラはそっちに」


この沢山の綺麗な花たちが並ぶのは、下町で1番大きい家屋の向かいに建つ、ラスイル ユーリシアの営む花屋

家主であり、店主でもあるラスイルはバケツに水を張ってその中でアヤメの茎の根を専用のハサミで斜めに切り落とす…

こうして茎に水分を吸わせているのだ
切り終えた花は種類ごとに縦長い筒状の容器に差し入れていく

そして、花たちを店頭に並べるのはラント家の住人であるリオの日課なのだ


「おはよう、ラスイルくん! リオくん!」
「あ、マッチさんおはようございます」
「……おはよう、ございます」


本日のお客様第1号は、噴水のある広場の脇に住んでいるお得意様
マチルダ ネーディルでラスイルとリオはいらっしゃいませ、とお辞儀をした

律儀に出迎えられた事に少しむず痒くなりながらも笑顔で受け止めたマチルダは目的を告げる


「ナノハナっておいてあるかしら…お客様が来るからテーブルに飾りたいの」
「ありますよ、ちょっと待っててもらえますか?」


屋内においているようで、手にしていた園芸用のハサミを持ったままラスイルは奥の方へ入っていった

お目当ての花があった事に安堵したマチルダは一息つく

待っている間に色とりどりの花たちを眺めているとリオがじぃーーっとこちらを見ている事に気付き、どうしたのかと声をかけると小さく口を開いた


「快活な愛…小さな幸せ…」
「…え?」
「…花言葉…ナノハナ」


リオの言いたい事がナノハナの花言葉だと理解すると急に顔を赤くするマチルダ

知ってて選んだわけじゃないのよ? などと何かを必死に否定しているが、意図が全く分からないリオは頭上にハテナを浮かべている


「彼はお、お客様だからおもてなししなくちゃいけなくて、昼食を一緒に食べようってなったからお花を新しいのに変えようと、えーと…」
「……?」
「お待たせしました…あれ? マッチさんお顔が赤いですよ?」
「ふぇ…!!」


ラスイルが心配げに声をかけると、何でもないと言いながら動揺する姿には全く説得力はなく……
居づらくなったのか、いそいそと会計を済ませると帰ってしまった

ガルドを釣銭箱にしまい、まだ状況が分からないラスイルはどうしたのかリオに聞いてみたが、分からないと首を傾げられる

特に怒っていたようではなかったので、問題ないだろうと判断したラスイルは作業の続きに入り、リオはプランターに入った花に水やりを始めた






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