守る



アスベルがラムダを受け入れてから数日
皆がそれぞれの居場所に戻った
それはラスイルも例外ではなく、ラントで花屋を再開している

変化があったとすれば、ソフィとリオの2人がラント家で暮らしている事
正式にアスベルがラントの領主となった事


「おはよう…ラスイル」
「リオ、おはよう」


控えめに花屋を覗き込んだリオの頭を撫でる
表情の変化は見られないが、払い落とされないところを見るに頭を撫でられるのは好きなのかもしれない


「…今日は…?」
「今日はお休みなんだよ。せっかくだからプリン作ってあげるね」
「プリン……」


プリンはリオの好物だ
リオを家に招き入れ、とりあえずハーブティーを用意する
慣れた手付きで淹れ、角砂糖を小振りのティーカップに2つ入れて混ぜる
リオもアスベル同様甘党寄りだ


「すぐ作るから飲んで待っててね」
「…うん」


元々はしゃぐタイプではないリオは、大人しくティーカップの傾けている
その様子を見届けキッチンへ向かったラスイルはプリン作りを開始する
旅の中でも何度か作った事のあるプリンはすぐに出来上がり、冷やすだけとなったところでリオがやって来た


「どうしたの?手伝いなら大丈夫だけど…」
「……」


ふるふると首を左右に振る
ラスイルが調理をする時は大体アスベルとリオがそばに来て手伝いをしてくれるのだが、今回は違うらしい


「これ…アスベル?…ラスイル…?」
「わぁ…懐かしいなぁ。これは子供の頃だよ」
リオが手に持っているのは昔の絵
幼い頃、絵師に描いてもらったのだ
その絵にはラント領主アストンと妻ケリー、アスベル…そしてラスイルが描かれている


「…ヒューバート、いない?」
「この時はね。…用事があっていなかったんだんだよ」


思えばこの頃からラント家と親しくなったのかもしれない


「……」
「…気になるの?」


問いかければすぐに頷かれる
どう話したものかと考えていると、2人の耳に扉を叩く音が届いた
出迎えに行くと、そこにはアスベルが立っていた
その表情はどこか慌てているようにも見える


「どうしたのアスベル?」
「ラスイル、リオを見かけなかったか?庭にいると言っていたのにいないんだ」
「……えと?あれ……?」


ラスイルが後ろを振り返れば、リオは椅子に座りハーブティーを飲んでいる
庭の花を見てここに来ようと思ったのかもしれない
そう思うと嬉しい


「ラスイル?」
「あぁ、ごめんね。リオならここにいるよ。よかったらアスベルもプリン食べていく?」
「…そうだな、お邪魔します」


アスベルも招き入れ、テーブルへ案内してハーブティーを振るまう
リオを見つけたアスベルは肩を落としながらもどこか安堵しているように見えた


「リオ、次からは行き先を言ってから行くんだぞ」
「うん…ごめんなさい」


アスベルは花屋が休みだということを知っていたらしく、一緒にリオを探してもらおうとラスイルを尋ねたという
注意され、素直に謝る様子は父と子のように見えた


「これは……」


えに気付き、懐かしそうに目を細める
冷やしたプリンを配り、ラスイルも椅子に座った


「リオがこの時の話を聞きたいらしくて…」
「……うん」
「あー…そうだな。結果的に無事だったんだが、ラスイルに迷惑をかけた後の絵なんだこれは」


リオはもう一度絵を見る
アストンとケリーは普通、だがアスベルとラスイルは笑顔
迷惑をかけた後とは思えない程仲が良さそうだった


「この頃の俺は考えなしでな。目の見えないラスイルを外へ連れ出して遊んでたんだ」
「ラントの裏山でね。ボクは楽しかったんだけど…」
「ちゃんと考えれば、ラスイルを外に連れ出すのは危険だってわかるんだが…」



クスクスと笑うラスイルとは対照的、アスベルは眉をハの字にしている
生まれつき目が不自由だったラスイルは、一日のほとんどを自宅で過ごしていた頃があった
そんなラスイルにとって、アスベルは光のような存在である
そのアスベルが偶然花屋で見かけたラスイルに目をつけた
好奇心旺盛な子供だったと自負しているアスベル
ラスイルを見つけ、2人でラントの裏山へ向かって事故が起きてしまった


「……どうしたの?」
「アスベルがね、魔物に驚いて足をくじいちゃったんだよ」
「そうなの…?」
「うう…面目ない……」


首を傾げるリオに何故か頭を下げるアスベルを見て微笑むラスイル
どうやらリオの無垢な目に弱いようだ


「近くに痛み止めに効く花があったから処置をしてからラントに戻って……」
「親父にすごく怒られたな」
「ボクは怒られてないけど…」
「目の不自由な子を連れ出したあげく怪我をするとは何事か!バカ者!!…って言われたのを覚えている」


わざわざアストンの声まねで説明
あまりにも似ていたので笑ってしまったラスイルだが、リオは知らないので首を傾げたままだ


「その後でね、アストン様とケリー様にお呼ばれして、一緒に絵を描いてくださったんだよ」
「ラスイルは親父達も気にかけてたみたいだしな。それでも俺はラスイルと絵が残せて嬉しかったな」
「……もう」


いきなり笑顔を向けられ、ラスイルは頬を赤らめる
つられるようにアスベルも赤くなり、2人してどんどん赤みを増していく


「ラスイル、あつい…の?」
「えっ…ううん、何でもないよ///」
「アスベルも…」
「あ、あはは…///」
「リ、リオ!ボク今日花屋開けるよ、手伝ってくれるかな?」
「…うん」



完璧な照れ隠し
リオを連れてそそくさと動き回るラスイルを目で追う


「…最初は悔しかったんだ、俺ならラスイルくらい守れると思っていたのに逆に助けられて…」
「アスベル?」


自分に言っているのだと気付いたラスイルが手を止める


「あの時から俺は自分の中で誓ったんだ。今度こそラスイルを助けよう、守ろうって」


目が見えないながらに治療を施し、アスベルを手さぐりでラントまで引っ張っていったラスイルを


「今は一段と思ってる。ラスイル、お前は絶対に守りぬく!」
「…あ、ありがとうアスベル///」
「……ラスイル、また赤い…アスベル、のせい?」
「ち、ちち違うから!ね、行こうね!」



わたわたとしながらリオの背中を押して外に出る
その後ろにアスベルも続いて暖かく見守る

花の手入れをし、その手伝いをしている2人の姿は母と子のように見える

そして、はたからは、見守るアスベルも含めて親子のように見えたーーー。




13.07.31





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