今週の掃除当番が終わるので、第二体育館近くのゴミ焼却炉にわざわざ来ることはきっともうない。帰宅部のわたしがわざわざ放課後に残ってここをうろうろしていたら、結構怪しまれてしまうような気がした。思い込みすぎなのかもしれないけど。一人でゴミ箱を運んでいる。開放されていた体育館のドアを見ていても、西谷くんの姿は見えなかった。HRが終わったら即出て行ってたのに。さりげなく「みょうじさん、じゃーねー」と言ってもらえたのは、すごくすごく嬉しかった。返事を返す前にいなくなったけど。
やっぱり西谷くんの姿が見えなくて、わたしはゴミ箱を持ち直して焼却炉に向かおうとした。
「あ、」
いた。あの、3年生のきれいな先輩が。ジャージに着替えて、誰かと話していた。見たことはないけど、雰囲気からしてきっと同じ3年生だ。確か清水先輩。こんなに距離があるのに、美人だとわかってしまうのがすごいと思った。西谷くんの好みは、あんな人なのだろうか。わたしとは大違いの、きれいで細くて、男の子を見上げられる人。そこまで頭でぐるぐる考えていたら、なぜだかじんわり涙が滲んできた。ああいやだ、泣きそう。
「あれ、みょうじ。なしたの」
「あ、縁下くん」
急いでブラウスの袖で目元に浮かんだ涙を拭いた。こんなところで一人で泣いてるなんて、おかしい人にも程があるだろう。縁下くんとは1年のときに同じクラスだった。席も何回か近くになって、よく喋っていた。クラスが離れ離れになると、あまり会わなくなった。女子同士ならクラスが離れても挨拶とかするけど、男子とはあまり話しをする機会がなくなった。久しぶりだった。
「久しぶり。クラスちがうと会わないね」
「そうだね、接点なくなるよな」
はは、とそんなたわいもない話をしていた。縁下くんはわたしが泣いていたことには気づいていたのかな。とくにそこには触れずに軽く会話をして、わたしは「じゃあ、」といい加減焼却炉の方へ足を前へ動かした。
空になったゴミ箱を引きずるようにして歩く。本当はいけないことだけど、結構持ってるのがめんどくさくなってしまったのだ。また、第二体育館の前を通った。いまは休憩中のようで、バレー部の人たちが扉の近くにいた。その前を通るのは少しだけ緊張してしまう。縁下くんを見つけて、彼も同じようにわたしと目があったので手を振ってくれた。振り返す。その隣、ようやく、西谷くんを発見できた。彼は縁下くんの視線を辿ってわたしに気づき、縁下くんよりも大きく手を振ってくれた。
「掃除当番、だるいなー」
「うん、だるい。西谷くんは来週だね」
「あ、やべ。忘れてた。ヤなこと思い出させんなよー」
2mくらいの距離でキャッチボールされる会話たち。なんだかこれって、わたしたち仲良しみたい。さっきまでのもやもやは嘘のようにどこかに言ってしまった。西谷くんと教室でも喋れるのに、部活中にも喋れる。なんだかそれが特別のような気がした。あの、きれいな先輩は、部活中でしか喋ることはできない。
恋というものは、人をいやなやつにしてしまうのかな。