「西谷ナイサー」
掃除当番でゴミ箱を焼却炉に運んでたときにそんな大きな声が聞こえた。第二体育館、そこにはいままで何度も足を向けていたし男子バレー部の掛け声も何度も聞いていた。けれど、意識してはっきり聞いたのは今回が始めてだった。西谷くんの名前が聞こえて不意に足を止めてしまう。レシーブの途中だったようで開放されていた扉から滑るようにボールを拾う西谷くんが見えた。バレーなんて体育のときにやるくらいしかわからないけれど、目前に広がっている練習風景はわたしが知っているバレーとは全然ちがった。力強いボールを打つ音と、それを拾うレシーブの音さえ違う。迫力が凄かった。
「あれっ、みょうじさん。どったの」
ぎくりと肩が跳ねてしまって、慌てて手から落ちそうになったゴミ箱を掴み直した。飲み物を取りにきたのか西谷くんが扉側まで来ていて、わたしに気づいたみたいで声をかけてくれた。西谷くんの声に釣られたように1年のときに同じクラスだった縁下くんも「おー」と声をかけてくれた。
「あ、ううん。ゴミを捨てにきたんだけど、たまたま男バレがやってるところ見えたから。すごいね、迫力がちがう」
「だべ?まあいまは練習だからアレだけど。試合になったらもっとすげーからさ」
にかっと、教室でも見せてくれた笑顔。それが部活中の汗にまみれたものだとさらに輝いて見えて、ぞわりとなぜか震えた。じゃあ、と手を振られてまたさっきの練習に戻っていく。西谷くんの小さいようで大きい背中をわたしはずっと見ていた。
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「西谷くんって、新学期早々に謹慎くらってたから怖い人なのかと思ってた」
でも全然そんなことなかったねー。と、近くにいた子が言った。確かに、わたしは西谷くんとは今年になって知って、今日になって初めて喋った。印象、というものはいままで持っていなかったけれど今回で西谷くんがどういう人なのか気になっている。わたしよりも小さい背丈なのに、高く飛んだり滑り込んでボールを取ったり。教室では見せないするどい眼光がいまだにわたしの心臓に刺さっていた。