身長174センチ。足のサイズだって他の女の子よりも大きい。それがすごくすごく嫌で恥ずかしいとずっと思っていた。周りの女の子はだいたい肩くらいの位置に頭があって、男の子とだって目線が同じかちょっと上、下になる子だっている。生まれてからヒールなんて履いたことだってない。

「なまえー、これ外してもらっていい?」

後ろの伝言板を貼り替える為、画鋲を外してほしいと言われた。いいよ、と答えて1個ずつ画鋲を外していく。ついでに用紙をもらって代わりに貼ってあげると「ありがとう」とにこやかに見上げて言われた。それだけでかわいらしく思えて、わたしも「うん」と返事を返した。

いままで、どうしても恋愛だけはできなかった。同じ目線、もしくはそれ以下になってしまうわたしを男の子たちは軽く避けてしまうのだ。いいなと思った人がいままでいなかったこともない。でも、大抵の人が言う。「見上げられるのがかわいい」と。その時点でわたしはすっと心が引いてしまうのだった。

「背が高いとさ、ネットが近く感じていいよな」

と、西谷くんが言った。ネットってなんのネットだろう。わたしが疑問の声を出す前に「あ、ごめん。バレーの話」とつけたしてにかりと歯をむき出しに笑った。謹慎あけて久々学校に来た西谷くんとは、このときはじめて喋った。隣の席でこっちを見つめる西谷くんの瞳がとてもまっすぐできれいなものだと思った。しっかりと目が合うのもはじめてで、すこしだけ心臓がごとりと音がなった。

「わたし、運動音痴だから」
「タッパあるだけでもちがうよ。やっぱ迫力あるじゃん。女バレに誘われたりしなかったん?」
「うん、入学したときはすぐに声かけてもらったよ。あと、バスケ部も」

やっぱりーと手を叩いて大きい口を開けて笑う。それだけのことなのにこの場がぱっと明るくなったように感じた。どちらかというと大人しめのわたしだけど、西谷くんをみているとなんとなく楽しい気持ちになれるのは彼のこういう笑顔があるからだと思った。西谷くんは友達も多い。
そこでチャイムがなって、3時間目の数学の授業がスタートした。




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