「みょうじさん、好きです」

学校の渡り廊下。たまたますれ違ったとき、手首を掴んでそう言った。彼女は驚いたように目を見開いて、そのまま動かなくなった。彼女が及川さんと付き合ってることくらい知っている。むしろほぼ全校生が知っていてもおかしくない事実だった。何度か部活に来て及川さんと話をして、笑っている姿だって見たことがある。泣いてる姿だって。

「えっと、国見くんどうしたの?」

おずおずと聞かれ、掴まれたままの手を引っ張って離れようとする。それでも俺は離さないようにまた掴みなおした。何人かの通行人がちらほらこっちを見て喋っているけれど、そんなのどうでもよかった。及川さんの彼女だからってなんだ、こっちだって好きになってしまったのだ。こんなに熱くなるなんて、思ってもみなかった。

「俺、みょうじさんのことすごい好きです。及川さんがいるってわかってても、それでもやっぱすごい好きです。及川さんなんかやめて俺にしてくださいよ」

俺だったら絶対に他の女に目移りなんかしない。絶対にあんたを泣かせたりしないし悲しい思いなんかさせない。これでもかってくらいに愛せる自信がある。それなのに、どうして俺じゃあ駄目なんだろう。俺の方が先に好きになっていたのに。

「ごめんね、国見くん。ありがとう、気持ちはすごくすごくうれしい。でもね、わたしやっぱり、徹が好きなの」

だからごめんね、ありがとう。そう言って眉を下げて笑うみょうじさんを見て、ぐしゃりと潰されたような気がした。なんで、なんであんな男が好きなんだろうか。俺、見たんだよ、昨日知らない女とキスをしている及川さんを。あんたもそれくらい知っているだろう。そう言ってやろうと思ったのに、自分で言った言葉に泣きそうになっているみょうじさんを見て、でてくる言葉はなんにもなかった。
ねえ、しあわせにくらい俺でもできるよ。



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