ほんとうは、部活が終わる時間まで待ちたいけれど、それは孝支が許してくれない。部活で疲れているのにわたしの相手までしてもらうのもちょっとだけ心苦しいからそれにはわたしも素直に了解した。それでも、部活一筋の孝支を追いかけてるわたしはなんだかさみしいように思ってしまった。わがままだ。
「でさ、日向がまた影山にど突かれてんの」
今日の部活の話を電話でしてくれる。日向くんと影山くんとは面識はないのだけれど、孝支の話で二人のことは結構知っている。すごく身近に感じてしまって、渡り廊下とかで会う度に何度か声をかけそうになってしまう。これじゃあわたし、変質者みたいじゃないか。
「はは、おもしろいね。その子たち」
わたしは携帯を握り直して言った。さっきまで読んでいた雑誌を軽くぱらぱらとめくって、孝支の話を耳にいれる。優しい声がだいすきだと改めて思った。
「なまえさ、明日は久しぶりに一緒に帰んない?」
「 え、」
それはもう間抜けな声がでた。これじゃあ嫌がってるみたいじゃないかな。急いで声を出そうとしたけれど、なんだか声が絡まったみたいで上手くでてこない。ずっと同じ言葉ばかりを繰り返してしまっている。「もしかして忙しい?」と聞かれ、ようやく一つ深呼吸ができた。一緒に帰れるの、いつぶりくらいだろう。
「ないっ、予定ないよ。あってもキャンセルするしっ!」
「ぶはっ、それはいかんでしょー」
けらけらと明るく笑ってくれる、そんな声ですらきゅうんと口が緩んだ。にやける頬を抑えられないまま、どうしたのとたずねた。ああすごい。わたしの小さいようで脳みその半分以上を占めていた悩みがいま一気に溶けていった。
「部活遅いし待たせちゃ悪いと思ってたんだけどね。やっぱさ、電話たけじゃ足んないんだよ。学校で会えてもクラスちがうしさ。さみしいの」
ふふ、とひとつ笑い声と一緒にとろけるような言葉を送ってくれて。孝支はずるい人だ。どんどん好きになっていくしかない。真っ赤な顔は一人の部屋だから誰にも見られる心配はないのに、思わず顔を伏せてしまった。心臓がさっきからうるさい。
「そ、そういう恥ずかしいこと、よく言えんね」
「ばぁっか、なまえだから言ってんの。ね、明日一緒に帰るべ」
拒否権なんかあげませんと言いたいような言い方。そんなもの、わたしは最初から放棄してしまっているのだけれど。うん、と出したその声は、なんだなすごく弾んでいて恥ずかしくなった。