「ねえ、あたしきれい?」
「うん、きれいだよ」
「ふふっうれしい。なんかこの聞き方あれだね、口裂け女みたい」
「おいおい、雰囲気ぶち壊しじゃねぇか」
そうして、彼女はくしゃくしゃな笑顔を見せてくれた。
だれもいない協会で、俺たちは並んで立つ。ステンドグラスから散りばめられた小さな太陽光が、きらきらとスパンコールのように輝いてなまえのところに降り注いでいた。これをきれいと呼ぶのだと、俺は思った。
なまえが着ている真っ白なフリルのワンピースはお気に入りだそうだ。俺がクリスマスプレゼントにと、送ったものだった。今日はじめて着ているところを見れた。俺の見立ては間違いなかったのだと、うれしかった。今日この日のために目一杯おしゃれをしてきたのだろう、それはもう、俺の目にはかわいく映ったのだ。
「やだ鉄朗、だらしない顔」
「いやー、そんなかわいいとは思わなかったわ。びっくり」
「なにそれ、うそくさい」
くすくすと笑う。俺たちのいつも通りの掛け合いが、この教会内で響いていた。ゆっくらと2人で向き合って、浅く息を吐く。いままでにない緊張が身体中に広がって、ビリビリと電気が走ったような気がした。それに比べてなまえはえらく落ち着いているようで、手作りだと見せてくれたブーケを握り直している。俺だけが、なんだかかっこ悪い。
「ねえ、早く。時間無くなっちゃう」
急かされて、俺は頷いた。
「新郎、黒尾鉄朗はみょうじなまえさんと、これからも共に笑い、共に歩み、共に幸せな人生を歩んでいくことを誓います」
「…へへ、わたし、みょうじなまえも、誓います」
最後の方の言葉は、涙に溶けて流れていった。くちびるが重なることなく、俺たちは抱き合った。強く強く、このまま融合して、この熱で溶け合って一つの液体になれるように、力強く抱きしめた。
どうか、神様がいま見ているなら、俺たちのこの気持ちを汲み取ってくれないだろうか。
「ありがとう、こんなわがまま聞いてくれて」
「わがままなもんか。遅かれ早かれやってたことだし」
「結婚してくれるんだ、こんなあたしと」
「お前とだからするんだよ」
なまえは近くに置いていた車椅子に座って、それから俺の手を取った。そのまま自分の濡れた頬に持っていく。ありがとう、だいすき。そう、声にならない声で伝えてくれた。
明日、君の手術が成功したらちゃんとした式を挙げよう。みんなに祝ってもらおう。そうなったら、もっとちゃんとしたウェディングドレスでみんなを驚かせよう。君の好きなフリルをいっぱいつけて。
だから、だからさ。俺の願い通り、また笑って隣に立っててくれよ。
企画提出文