「みょうじが!みょうじが俺の肉まん食った!!!」

部活終わりなのにドタバタ騒ぐ日向はなんてパワフルなんだろう。わたしはただマネージャーっぽい仕事してるだけだからそんなに疲れたりしないけど、部員はそんなことないもんね。きっとくたくたでお腹も減っちゃうもんね。ううん、お腹ならマネージャーっぽい仕事をしたわたしでもすくんだわ。

「ちがうよ、わたしじゃないよ。ほらあれ、えーと、妖怪のせいだよ」
「まさかの妖怪ウォッチだ」

わたしのしょーもない誤魔化しに、山口は呆れたようにため息をついた。わたしの前で首を傾げている影山とやっちゃんにはまた今度ゲームを貸してあげることにしよう。

「「一大事〜」とか言ってやんねぇかんな!早く肉まん返せやっ」
「全部食べちゃった。いいじゃん、日向3つも買ってたじゃん」
「よくねーべやっ、腹持たんちゅーの!」
「いってっ!テメー日向このくそボゲェ!思っきり人の足踏むんじゃねぇよっ」

キーキーと騒ぐ日向は地団駄を踏んでわたしに怒ってきたけれど、その時にどうやら影山の足を踏んだらしい。あーあ、日向はきっとこの後に血を見るだろうに。「ごめんごめん、それよりも!」と適当にあしらうので、とうとう日向の頭に影山の鉄拳が落とされそうになった。

「王様が足踏まれたのも妖怪のせいかもね」

ぷっすーと、月島が笑う。賛同したように山口も笑って、鉄拳をいまにも振り下ろそうとしていた影山はそんな二人「ああ?」と睨んだりして。わたしが蒔いた種だけれど、なんかもうまとまりがなくなってきているのはいつもの事だった。だいたいわたしと日向がなにかやらかしたりして、そこからこうやってわいわいぎゃーぎゃーと発展していく。ほんと、なんでここの人たちはこんなに仲がいいんだろう。

「あの、日向。わたし2個も欲張って買っちゃったから1個あげるよ、よかったら食べて」
「マジで?いいの谷地さん!?」
「やっちゃん!餌付けだめだってっ」
「え、餌付け?」

優しい女子代表のやっちゃんは紙袋に入っていた肉まんを出そうとしていて、そんなところにもきゅんとした。やっちゃんは本当にいい子だと思う。ヒロインポジションには最適な逸材だ。結局やっちゃんから一つもらって食べている日向は、さっきのことは忘れたみたいにすっかりご機嫌で歌なんか歌っていた。きっと山口が妖怪ウォッチとか言ったから、頭に流れちゃったのね。その流れにのってわたしも一緒に歌う。

「ていうか、なんでみょうじまで妖怪ウォッチはまってるの。日向は妹がいるからわかるけど
「え、月島くんは見ないの?ゲームもしないの?面白いよー」
「俺も詳しいことは知らないなー。流行ってるところくらいしかしらない」
「え、山口くんすごい…、わたしなんかなにがなにやら。今度勉強してこなきゃ」
「ぶわはっ、谷地さんどんだけ真面目!」
「ぎゃあっ日向ボゲェ!くそボゲェ!肉まん飛ばしてくんじゃなーよっ」

「それもきっと妖怪のせい」わたしが言うと、月島にばっさりと「もうそのネタ飽きたと」言われてしまう。飽きるの早すぎるよ。すっかり冷え込んできたこの季節は、肉まんもおいしく感じられるし、みんなで楽しく歩けているのがなんだかすごく特別なように思えた。秋のしんみりしたような季節を吹き飛ばしてくれる。明るい人たちのおかげだ。

「よしっ!みんなで体操してるところを動画にアップしよーう!」
「うおーっ、いいねいいね、やりたいっ」
「わ、わかんないけどがんばる!覚えてくる!」
「だから谷地さんも乗らなくていいって。バカなんだから。この人ら」
「てかみょうじのどハマり具合にドン引きだよねー、ツッキー」
「あっ、おいみょうじ!お前俺のぐんぐん飲んだな!?」

結局、次の日に妖怪体操を踊ったのはわたしと日向、なぜか知っていた田中先輩と西谷先輩、そして本当に勉強してきたやっちゃんだけだった。


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