◎日本号連載・めぐるひととせ番外編
※まだまだ8月の後あたりの話
ふと、気づいたことがある。
日本号さんは最近、私の部屋に来る時、アクセサリーを外している。
「で、何でかって?」
縁側に二人並んで、足を外に放り出した格好で晩酌をしていた。
そこで、日本号さんの首元にいつもあるはずのものがないことに気づいたのだ。
そういえば、最近日本号さんは、いつも二人きりの時にネックレスを外しているよなぁ、と。
「和装の時以外はいつもしてるのに、そういえば何でなんだろうなぁ、と思って」
杯に注がれた冷や酒を口にしながら、何気なく、思ったままを言葉にすると、日本号さんは指で顎に触れ、何か考え込むような素振りをした。それから、手にしていた杯を置き、徳利やお皿なんかを後ろへ押しやると、私の杯を指差した。
「一旦そっちに置いてくれ」
「ん? これをですか?」
「そう」
はあ、と訝しみながらも言われた通りに杯を脇に置いた。
と、同時に、すぐさま体が引き寄せられる。
「わ」
「こういう時、当たるだろ」
「へ?」
「あんたの顔に当たっちまうだろ、あれつけてたら」
「あ……ああ〜」
予想もしていなかった答えに、間の抜けた返事しか出来なかった。
なるほど、確かにあのネックレスは、こうして寄り添うとなると危険だ。なにせペンダントトップが大きいし、シルバーのしっかりした作りなので、当たると結構痛い。
というのも、日本号さんが修行から帰ってきたあの日、抱きしめられた時。実はちょっと痛い思いをした。一瞬、頭のてっぺんに当たっただけだったけども。
けれど、そういえばあの一回以来、同じような思いをしたことはなかった。
それはどうやら、日本号さんの気遣いのおかげだったらしい。
「気にかけていただいてたんですね……ありがとうございます」
「おう」
なんだか上機嫌な声で返事をされて、日本号さんの胸のあたりに収まっている顔が熱くなった気がした。嬉しくて、でも結構、恥ずかしい。
「ま、若干面倒ではあるんだけどな」
「えっ」
思わず体を引き剥がし、バッと顔を上げる。いちいちネックレスを外すのが面倒、という意味なのだろうかと焦ったが、どうやらそういう意味ではないらしい。
「アレ外して廊下歩いてると、カンの良い奴は気付くんだよなぁ。んで、ニヤニヤされるからよ。ほっとけっての」
「あ、そういうことですか」
唇をむ、と尖らせている日本号さんに苦笑いを返しながら、ほっと胸を撫で下ろした。
「ま、別に気にゃあしねーし、いいんだけどな」
言いながら、日本号さんは再び杯を手に取った。
「あ、つまみ食えよ。とうもろこしのかき揚げ」
「はい!」
す、と差し出されたお皿から、粗塩とレモンのかかったかき揚げをひとつ、お箸でつまみ上げる。日本号さんの揚げるかき揚げは、すごく美味しいのだ。
「いつまでも暑いが、暦の上じゃあ、もうとっくに秋だからなぁ。次は牛蒡か舞茸でも揚げるか」
「わあ、楽しみです!」
恋仲らしく寄り添うのもいいけど、こうして何でもないような話を当たり前にできるのも、やっぱり心地良い。
巡っていく季節の中で、お互いの想いも、一緒に過ごす思い出も、たくさん積み重ねていきたいと思った。