私ね、何回も……あ、ううん。きっとねぇ、何十回もデートしているなぁ、あの人と。明日には式を挙げるあなたと比べたら、多分あなたが惨敗するくらい。
あ、やだ。そんなに眉間に皺作らないでよ、せっかくのイケメンが台無し。
ん?  ああ、そうねぇ。よく行ってたのは……うん、最近は大体グレン島の、火山のてっぺんあたりに連れてってもらって海を見に行ったりしてたかな。
昔はそりゃあ、タマムシデパートでソフトクリーム食べさせてもらったり、ランチに連れてってもらったり、セキチクサファリパークなんかの遠出もしてたんだけどね。ほら、お互いに年が、ね。
そういうのもあって、近場でお話ししたり、色々と相談に乗ってもらったりすることが多くなったかな。
飽きないわよ、全然! いつもね、ギャロップに乗せてくれるの。私、普段パートナーのロコンとばかり一緒にいて、大きなポケモンと触れ合う機会も少ないから。
いつも新鮮で、それこそギャロップが飛び跳ねるみたいに胸が踊るの。
デート、とっても楽しいんだから。



「って話をしたらねぇ、惚気かよって怒られちゃった」
「ナッハッハ、じゃあこりゃあウワキだなぁ!」
「浮気だねぇ、おじいちゃん」
「浮気もんだなぁなまえは!」

タマムシデパート、屋上にて。
テーブルの向かいの席で、ぐわっ、とドゴームみたいに口を開けて豪快に笑うのは、私の大好きな祖父、カツラおじいちゃんだ。
おじいちゃんは、いつも私の話をちゃんと聞いてくれて、笑ってくれて、いつも私の味方でいてくれた。

小さな頃、初めてのパートナーであるロコンと一緒に挑んだ初めてのポケモンバトルで、負けて、悔し涙が止まらなかった時。
ポケモンのことばかり考えて宿題を忘れて、お母さんに叱られた時。
友達と喧嘩して、なかなか謝れずにいた時。
小さな私がめそめそしていると、おじいちゃんはこっそりタマムシデパートに連れていってくれた。
そして、そういう時は決まって、屋上のお店でソフトクリームを買ってくれたのだ。ソフトクリーム片手ににっこり顔のバリヤードがプリントされた、ポップな看板が可愛い、人気のチェーン店だった。
一番人気のモーモーミルク味から、チョコレート味やモモンのみ味、ミックスオレ味なんてものもある中で、私は必ずカラフルなチョコレートスプレーがかかった、モーモーミルク味のソフトクリームをせがんでいた。
おじいちゃんは店員さんに注文を伝えて、「これを2つ!」と元気にブイサインを作る。
おじいちゃんの、その顔を見ると、幼かった私はそれだけで元気になれたものだ。
火傷の跡がいくつも残る、火山のようにごつごつした手からソフトクリームを受け取って、屋上にいくつも置かれた白い椅子に腰掛ける。白いテーブルを挟んで、向かい合って二人、おんなじ味のソフトクリームを食べる。
ちょっとずつ、大事に大事に食べる私とは反対に、カツラおじいちゃんはいつも2口、3口ほどでペロリと平らげてしまう。もっとゆっくり食べなよ、お腹壊しちゃうよと言うと、「大丈夫、じいちゃんはほのおタイプのジムリーダーだからな!」と訳の分からない屁理屈を言って、私を笑わせてくれた。
ソフトクリームにかかったカラースプレーも、おじいちゃんの言葉も、同じように私を元気づけてくれたのだ。
その思い出たちは、どれだけ時が経っても鮮明だ。
結婚式前の今日1日、おじいちゃんと過ごす時間をくれたのは私の婚約者だった。
私のおじいちゃん子っぷりをイヤというほど知っている彼が、おじいちゃんと出かけておいでよと言ってくれた時、この人と一緒になれて良かったと心の底から思った。

今日、思い出のタマムシデパート屋上で、思い出のソフトクリームをカツラおじいちゃんと二人で食べている。
おじいちゃんは店員さんに「今日は、この色つきのチョコ多めでね! 明日はこの子の結婚式、めでたい日だから!」なんて言っていて、ちょっとだけ恥ずかしかった。
常連で顔馴染みの私たちだからだろうか、注文通りカラースプレーチョコがたっぷりのソフトクリームを手渡されて、童心に帰ったような気がした。
子どもの頃の自分がこれを見たら、きっと目を輝かせて羨ましがるに違いない。

「おじいちゃん」

改めて、背筋を伸ばしてからおじいちゃんに向き合った。

「ん? どうした?」
「ここまで育ててくださって、ありがとうございました」

深々と頭を下げる。
食べかけのソフトクリーム片手に言うようなことじゃないかもしれないけれど、こうして私とおじいちゃんとの思い出の場所で、思い出の味と共に感謝を伝えるのは、私たちらしくて良いと思った。
ちらりと、上目遣いでおじいちゃんの様子を伺ってみる。
おじいちゃんは口をぽかん、と開けたまま固まってしまっていた。
それから少し間を置いて、なんじゃあ改まって! と肩を揺らして笑い出した。なんだかつられて私まで可笑しくなって、つい吹き出してしまった。

「笑うところじゃないよー、おじいちゃん」
「すまんなぁ、ははは!」
「もう、私明日は新婦さんなんだよ?」
「そうか、そうだなぁ…なまえ、大きくなったなぁ」
「えへへ、そうでしょ」
「幸せになりなさいね」
「……うん、ありがとうおじいちゃん」

明日、私の人生に一つ区切りがつく。
これから、新しい人生が始まる。
それでも。

「おじいちゃん、結婚してもまたデートしてね!」
「そいつは浮気だぞ、なまえ!」
「へへ、浮気だねぇ!」

明日の式のスピーチでは、サングラス外さなきゃいけないくらい感動させてやろう。