「…おえ」

よくこんなべろんべろんな状態でここまで歩いて帰って来れたものだと、我ながら感心してしまう。松平のとっつぁんに勧められて、というか無理矢理だ。つい飲み過ぎてこのざまである。頭はぐるんぐるん回っていて、それでいて内側から殴られているような感じで、ガンガンと割れそうに痛い。だるい。水…。ただ玄関でくたばっている自分にはどうしようもない。動いたら最後、吐きそうだ。

「退くん」

頭上から降る耳心地のよい声。見上げると、なまえさんが心配そうに俺を見下ろしていた。

「う、あー…なまえさん」
「だ、大丈夫?じゃ、なさそうだね」
「とっつぁんに、無理矢理飲まされた…」
「うん、そっか…ちょっと待ってて、お水持ってくるから」

そう言って彼女は台所へ引っ込んでいった。こんな時間に帰ってきた俺に気付いてくれたということは多分、扉を開けた時の音にプラスして、俺が倒れた音で彼女を起こしてしまったんだろう。申し訳ない気持ちがこみあげる。ついでに吐き気もこみあげる。

「はい、どうぞ」
「ごめん、ね」

謝罪の念をありったけ込めて、とにかく謝罪。いいよ、大丈夫、と彼女は笑顔で許してくれる。なんとか起き上がり、水を少しだけ口にした。なまえさんが体を支えてくれている所為もあってか、さっきより幾分ましになった気がした。

「メールが来たから遅くなるのはわかってたけど、まさかこんな状態で帰ってくるなんて思わなかったよ」
「…すいません」

この体たらくの俺を怒る訳でもなく、笑って許してくれる彼女。寛大な彼女の傍にいると、とても心が落ち着いてくる。う…ん、なんか眠くなってきた、かも…

「ちょっと退くん、寝るならちゃんと着替えてからにして」
「う…はい」

やっぱりなまえさんでもそれは許してくれないか。今ある力を振り絞って頑張って着替えて。そうしたら彼女に寄り添って、ゆっくり眠ろう。酒臭いとか言われたら、その時はその時で。