今日も変わらず大変麗しく輝かしい僕の憧れてやまないなまえさん。前の町のポケモンセンターで小耳に挟んだ情報によると、彼女は次に向かう町への近道として鬱蒼と茂るこの雑木林を抜けようとしているらしい。女性一人では危険だと彼女の身を案じた僕はこうして陰ながら彼女を見守っているというわけだ。
それにしても今日のなまえさんはまた一段と美しい。こんな林を抜けるのには不都合ではと思われる、透き通るような淡い色合いのワンピースを身に纏い、そんな違和感は感じさせずにずんずんと進んでいく。ひらひらとまるで色違いのモルフォンの繊細なさざめきのように、風が吹くとスカート部分が靡いた。本当にその様は素敵で、思わず感嘆のため息が出て人には出来るだけ見せたくないようなアホ面になってしまうほどである。清楚系ワンピース、万歳。
僕もなにも無計画でなまえさんをコソコソ追いかけている訳ではない。これはなまえさんを危険から守り且つ僕となまえさんの未来予想図を描くチャンスでもある。僕の思惑はこうだ。
例えばなまえさんがこの木々に惑わされ進むべき方向を見失った時。颯爽と登場した僕が彼女の手をとり苦いポフィンばかり食べさせられたポケモンが如くかしこさ高めを意識した雰囲気で彼女を出口という名の僕らの未来のゴールへと誘うのだ。
また別パターン。
例えばなまえさんの目の前にお腹を空かせた凶暴なリングマ軍団が現れた時。またまた颯爽と登場した僕がなまえさんを庇いつつポケモンに的確な指示を出し完膚無きまでにリングマを倒す。そして彼女の手をとり辛いポフィンばかり食べさせられたポケモンが如くかっこよさ高めを意識した雰囲気で彼女を虜にする。
うん我ながら完璧すぎて一人でニヤついてしまいそう。なまえさんとの明るい未来がみらいよちできますねぇさあ早くトラブル発生を僕となまえさんのToLOVEるを早く
「君、後ろ!!!!」
「へっ?」
突然振り返ったなまえさんと目が合ったことに面食らっていると、僕の背後に得体の知れない気配。振り返るとそこには予想もしていなかったポケモンがいた。いや、これは本当に生きているポケモンなのだろうか?
ピクシーだ。確かにピクシーの色、姿、形をしているが、雰囲気が、なにかおかしい。耳は力なくだらりと垂れ、俯き気味で見ようにも見ることがかなわない目元が妙に恐ろしい。ひょっとして、怪我をしているのか?異様なまでに暗いオーラを纏ったそれに冷や汗をかきながらも近付きその顔を覗きこもうとすると、突然ピクシーが勢いよく顔を上げた。
「え、う、うわああああっ!?」
「な、なにこれ……」
顔を上げたピクシーに目玉はなく、本来つぶらな瞳があるはずのそこにはポッカリと空洞があり、口元には下卑た笑みが浮かんでいる。違う。これはピクシーじゃない。
これは、つまり。
「でっ、でで…出たああああ!!」
「うわっ…今にもタチサレ……って言いそう」
「言ってる場合ですかなまえさんんん!!あれモノホンじゃないですかシルフスコープがないと太刀打ちできないゆうれいですよあれ!!」
なまえさんの手前気絶だけは避けなければとなんとか意識を保ったものの、ポケモンサマースクール肝試しでのトラウマが蘇りポッポ肌が凄まじいことになった。泣きそう。これで襲いかかられたら泣く。
いやけどこれはなまえさんにいいところを見せられるチャンス…いやいや無理無理!無理だけど逃げたら名前さんに危険が及ぶしやっぱりだめだ!しょうぶのさいちゅうにあいてにせなかはみせられな「危ない!!」
「……え、」
ごちゃごちゃと考えている間にゆうれいピクシーが自分に向かって飛びかかってきた。僕はすぐに腰が抜けてその場にへたり込んだが、そのすぐ横をなまえさんが猛ダッシュで通り越し僕を庇うようにゆうれいの前に立ちはだかった。それと同時に彼女はモンスターボールを振りかぶり思い切り投げた。ボールから出てきたジュカインのリーフブレードがゆうれいにクリティカルヒットし、ゆうれいは意外に呆気なく地面に伏した。
ゆうれいはすでにその姿を変えていた。いや正体を現していた。
やつはゲンガーだったのだ。
おそらく野生のゲンガーがイタズラで人間を脅かしていたのだろう。正直その正体が本物のゆうれいではなくポケモンであるゲンガーとわかり、ホッとしていた。そして気が緩んだせいで僕は今最低な事を呟いてしまった。
「水色…」
呟いてからしばらくの沈黙。後に僕は顔から血の気が引くのがわかった。いや、いや違うんですよ……こんな状況でパンチラするから!!見えちゃったのであって見たわけではないんですホントに!!あの絶望的な状況で希望の光に見えたというか!いやそれはそれで僕言ってること気持ち悪いことこの上ないけど!!ダメだ何言ってもただの変態だよりによって助かって第一声がパンツの色ってフォローしようがない!!!
「見たね少年」
さて当のなまえさんは、ワンピースの裾を軽く払いながらニヤリと笑い僕を見た。想像していたのはゴミを見るようなオニドリルのようなするどいめだったのだが、存外そんな気配はなく、彼女はただ不敵な笑みを浮かべ僕を見ていた。
というか今更だが、何故彼女は僕の背後のゲンガーに気付いたのだろうか。僕はひたすらうつくしさ満点ななまえさんの後ろ姿を見つめつつあれこれ妄想、もとい思案していたわけで、その存在にこれっぽっちも気づかなかったのだ。なまえさんが背後の僕の存在に気づいてでもいない限りはゲンガーには気づけないだろう。
まさか。
始めから彼女は僕の存在に気づいていたのだろうか?そしてぼんやりと妄想、もとい思案していた僕よりも先にゲンガーの存在に気づいた?
「どうせ見られるなら白とかのが良かったかな?」
「ええー…いや、そんな」
「立てる?」
まったくこの人は。
平然と手を差し伸べるなまえさんに、かっこよさかわいさうつくしさ、かしこさたくましさ全てにおいて、僕の完敗である。