隣を歩く小堀の顔を見上げる。頬が緩んだ、なんとも幸せそうな表情であんまんを頬張る横顔は非常に可愛らしい。いつも思うが、とても身長が190以上ある大男とは思えない雰囲気の持ち主である。なんというか、穏やかな大型犬っぽいのだ。ゴールデンレトリーバーとかふわふわしたやつ。

「寒くなってきたからこういうの、すごい美味く感じるよなぁ」
「だねぇ、小堀見るからに幸せそうだもん」
「え、うそなんか恥ずかしいな」

そんなヘラヘラしてたかな、と照れたように頭を掻き、また一口あんまんを頬張った。それにしても、小堀があんまんを手にすると自分が同じ大きさのものを食べているとは思えなくなる。小堀の手は、身長と比例してとても大きい。彼があんまんを手にすると、普通のお饅頭ほどの大きさに見えてしまうくらいだ。いややっぱ大袈裟かも。
自分が手にしているものは確かにそれと同じものなのだが、なんだか。

「小堀があんまん持つとなんか申し訳なくなる」
「えっ何それ」
「同じもの食べてるのに同じ大きさに見えなくなるからさ、小堀手大きいし」
「はは、なるほどね」
「でも男の人は手が大きいほうが良いよね」
「そうか?手が大きくていいことなんて、バスケくらいだぞ?」
「モテる」
「え、まじで」

それはちょっと嬉しいかも、とヘラヘラ笑って最後の一口を頬張った。素直だけど調子に乗りすぎないから、森山なんかより全然かわいい。森山はすぐに気持ち悪い反応するからダメだ。あいつも顔とかスタイルとかモテる要素それなりに持ってるけど、確信してる。あいつはモテない。
小堀はあんまんを包んでいた紙をくしゃりと握り、小さくなったそれを通りかかった公園のゴミ箱に捨てた。私のは、あとちょっと残ってる。あんまんを片手に持って、もう片方をパーにして小堀に手のひらを向けた。

「小堀、手」
「ん?」
「手の大きさ」
「…比べるやつ?」
「比べるやつ」

小さい手の女の子って可愛いなって思うけども、私はそんなちまっとした手をしてる訳じゃなくて、むしろ女の子の小さくて柔らかい手をふよふよ触るのが好きである。可愛らしくて好きだからっていうのもあるけど、羨ましいって気持ちももちろんある。小堀の手はそんな私よりもひと回りほど大きいように見えて、気になりだすともう試すしか。もうね、比べてみるしかないと。バスケ男子の手と比べることで自分の女の子感をこう、維持したい訳だ。
小堀はというと、何故かあわあわしている。

「小堀、それ手、逆」
「あ、あれ?そっか」
「なに慌ててんの、落ち着け落ち着け」
「はは、ごめん」
「ほれ」
「…はい」
「おー、やっぱり比べものにならないや」
「あー…やっぱ、その」
「ん?」
「手、小さいな」

よっしゃあその一言で私は満足です。当たり前だけど、小堀の手はやっぱり私のよりずっと大きかった。簡単に包まれそう。さすが毎日バスケでゴール下守ってるだけあるわ。
手を離して、少し冷めたあんまんを一口。咀嚼して、大きめな最後の一口。

「なぁ」
「ん?」
「手が大きくていいことなんてあんまりないって言ったけど」
「うん」
「あったよ、いいこと」
「むぐ、なんはまっな?」
「うん、今、いいことあったよ」

まさかもぐもぐしながら喋ったことが通じると思わなかったけども、さすが小堀、空気の読め

ん?

危うくスルーしかけた小堀の不意打ちに、ときめいて、噎せた。


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