◎叶わない恋心(死帳)
『きみの名前』の転生主視線の話
____こんなに辛いなら、君とで会わなければ良かった。
君に話しかけられたあの日が懐かしい。
温かく私たちを包み込んだ茜色。
いつまでも続く現実にたまらなくなって、消えてしまいたくて、楽になりたくて、それでも自分から終わろうとすることすらできなくて、公園でうずくまっていた私に手を差し伸べてくれた。
じんわりと胸の奥が温かくなって、
でも、それ以上に何を考えているのかわからない"人"が怖くて、
私は君を酷い言葉で遠ざけたね。
それでも君は飽きずに私と話してくれた。
「・・君なら私を・・」
こんな腐りきった世界から、連れ出してくれる?
そんなこと言う勇気がない弱虫な私は、相変わらず臆病なまま、
真っ直ぐと前を歩き続ける君に向かって手を伸ばしては空を掴む。
・・思えば私、君のことあまりにも知らなすぎたのかもしれないね。
私は他人と距離を取って生きることしか知らなかったから。
君の名前を聞いて、私はすごく嬉しかった。
誠意を見せてくれた君に敬意すら払っていた。
君に出会えたことに感謝していた。
・・でも今はそれが苦しいよ。
抱いてしまうよ、願ってしまうよ。
君と過ごした幸せな時間。
茜色を見る度、叶わない恋心を思い出してしまう。
「また明日」だなんて、言いたくなかった。
止まらない涙を欺いた笑顔の下に隠した私を見て、君は何を思っただろう。
自分がついた嘘なのに、たまらなく苦しい。
こんなに辛いなら_____
あふれ出した涙が冷たい茜色に吸い込まれる。
もう戻れないのに、君に会えないのに。
振り下ろされる銀色を受け入れながらも、
それでも疼いてしまうんだよ。
君に会いたいって。
ああ、落ちていく。霞んでいく。
君の笑顔も。
想いを焦がした茜色も。
君は私を覚えてくれているだろうか。
どうか、覚えていて。消さないでいて。
薄れてしまった世界を見つめる。
ああ、また茜色。
茜色に向かって手を伸ばす。
・・もっと、君と一緒にいたかったな。
・・君に私の名前、呼んでほしかった。
・・ありがとう、大好きって、言いたかったな。
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