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- ナノ -

彼と少女が出会った日

それはずっとずっと前のこと。

自他共に認める天才で、20世紀で最も偉大な魔法使いが立派な髭を持つ前のこと。

彼と少女は出会った。


「こんにちは」

「・・こんにちは」

5、6歳にしては落ち着いた、いや落ち着きすぎた反応で、彼は少し驚きながらも、見慣れぬ東洋の(確か着物と言ったか)服を着た、裸足の少女の隣に座った。


少女は"変わっていた"。

一本角と牙が生えて耳も尖っていた。

小鬼、だろうか。

しかし自分の知る小鬼とは明らかに異なっている。

それでも彼は気にならなかった。

少女の複雑な感情を宿した目を見たからかもしれない。


「なぜ隣に座るのです」

「なんとなくだよ」

「暇なんですね」

「そうかもしれないね」


彼の返答に少女は拍子抜けしているようだった。

しばらくじっと彼を見つめると、飽きたように真っ青な空を見上げる。


彼と少女は時々会話をして過ごした。


「こうやって静かに空を眺めるのは気持ちがいいね」

「・・そうですね。私も嫌いじゃないですよ」

「ほら、あの雲を見てごらんよ。美味しそうなパンみたいだ」

「・・ぱん?」


「なるほど、大体理解しました」

「今度一緒にパンを食べに行こうか」

「・・いいのですか」

「ああ。好きなだけ食べていいよ」


「あなたはどうしてこんなところに」

「なんとなくだよ。暇つぶし。君はどうしてこんなところに?」

「さあ。気がついたらここにいました」

「・・君のご両親が心配しているのでは?」

「両親はいません」

「・・そうか。辛いことを聞いたね」

「いえ。気にしていません。元からいない存在だと思っていましたから」


彼は知らぬ間に、少女から目が離せなくなっていた。

なんとも言えぬ心地よさと、時々姿を見せる少女の脆さに。

彼女をひとりにしてはいけない。

己の本能がそう告げている。

気がつけば手を差し出していた。


少女も少女で彼のことを気に入っていた。

自分の知る人間とはひと味もふた味もちがう彼に。

彼と過ごす時間は穏やかでどこか満たされていくようだった。


「君が良かったら、私と一緒に来るかい」

「あなたに何の得があるのですか」

「君のこと、放っておけなくてね」

「・・まあ、私と同じであなたは孤独な人ですからね」

「・・孤独か。そんなこと、言われたこともなかったが・・そうかもしれないね」

「あなたの周りの人間の目は節穴なんですかね」

「・・今更だがまだ名乗っていなかった。私の名はアルバス。アルバス・ダンブルドアだよ。君は?」

「好きに呼んでください。私には名前がありませんから」


「・・愛支。君のこと、愛支と呼ぶよ」

「愛支ですか。・・気に入りました」


それが彼と少女の長い長いつきあいの始まりの日だった。

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