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暗雲


「愛支。今日はいい天気だよ。たまには外の空気を吸って、気分転換したらどうだ?」
「……。」
「俺だって、盾くらいにはなれるから、さ」
「…私を守る盾になんて、ならないでください」

陽光をここまで鬱陶しく思ったことはない。
ぶちっと電話線を引き抜いた。
ほっとして、ため息をつく。
これで、先程までの騒音が消えるはずだ。
これで、やっと静かになる。
私の日常を 取り戻せる。
そう思った。
けれど、どうしてだろう。

「音が…ずっと消えないんです」
「…愛支?」

電話線を引き抜いた。
スマホの電源も落とした。
それなのに、それなのに。
まだ、あの音がしている。
先程よりも、もっと大きく、頭の中に響き渡っている。

「愛支!」

電話でも、スマホでもないなら、一体どこからこの音は聞こえてくるのだろう。
そう思って部屋の中を見回した。
それでも、わからない。見つからない。
両手で耳を押さえても、あの機械音は止まない。
だから、せめて温もりが恋しくて、心配そうな顔をするヒロを抱きしめた。

「…愛支?」
「…ヒロは…やっぱり温かいですね」

温かい。あのひとみたいに。…私の英雄みたいに。

「私、ずっと迷惑をかけてきたんです」

私がいたから、傍にいたから、あの人はずっと辛い思いをした。
心がすり減って、もがいて、愛してきたはずの娘はこんな訳が分からなくて。

「だから、忘れてほしかった。私なんて、いなかったように、自分の幸せだけを想ってほしかった」

ヒロは驚いたように顔を上げる。
ヒロの額には雫があって、そこでようやく泣いていたんだと自覚した。

「あの人、優しいから。私に謝りたいって言うんです。…やり直したいって」
「…うん」

壊れないように気を付けながら、ヒロを抱きしめる腕に力がこもった。

「でも、どうしても、ダメなんです。あの人の声を聴くと、私、おかしくなるんです」
「…愛支…」
「誰かにぐちゃぐちゃな私の心を見透かされるのは怖いんです。それなのに、あの音がやまなくて。…最近の私、おかしいんです。今の私は、きっと誰かを傷つけても何とも思わない」
「…そうか」
「…零さんは、どうしてこんな、こんな私を助けてくれたんでしょう。」
「…。」
「零さん、誰かのために命がけで頑張っていてくれるの、わかります。…だから、ただでさえ、疲れているのに、私のせいで、もっと疲れているあの人を見ると、申し訳なくて、消えたくなります」
「……」
「……馬鹿ですよね。私が傍にいてほしいって、言ったのに…」

体が重くなるのを感じた。
涙を流し続けたからだ。
頭がぼうっとして、うまく、動かせない。
意識が遠のいて、いく。

「ねえ、ヒロ…」
「…うん。聞いているよ」

ヒロは優しく微笑んで、私の言葉を最後まで聞いてくれる。

「私、どうしてこんなに迷惑をかけるんだろう。…ただ、普通になりたくて、不通に憧れて、生きてきただけなのに」

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