(幼馴染/成人後/同棲)


 半分に出来るもの、たくさんある。ふたりぶん入れた緑茶、鍋の中の味噌汁、いつかふたりで分けたおやつのお饅頭。割り箸だって、半分に割るように作られている。

「あ……」
「しょうがねえだろ、そういう食いモンなんだから」
「半熟にするんじゃなかった……」

 半分に出来ないものは、多分もっとたくさんある。ハムエッグの黄身、フォークとナイフ、綺麗な模様の入ったお茶碗。生きてるものも。そう、たとえば、あなたとわたし。
 食器なんて水ですすいで食洗機に放り込んで終わりなんだけど、流れ出すどろっとした濃い黄色を、どうしてかあまり好きにはなれない。

「焦凍くんはハムエッグ、どっちが好き?」
「俺は魚の方が好きだ」
「はいはい、明日はお魚にするね」

 焦凍くんは、半分ずつ違う個性を持って生まれた、ひとりの人間だ。人間は、半分こにはできない。

『左は絶対使わねえ、お前ももう、あいつの話はするな』

 彼はずっと嫌っていた。自分の半分のこと、それを喜ぶお父さんのこと。けれど彼は頭がいいから、自分が生きている限りずっと逃げられないこともわかっていた。痛い、苦しい、いらない。彼が左側に集めた憎悪は、どれだけ私が慰めたって消えることはなかった。それを思うたび私は自分の無力を痛感したけれど、でも彼のそばから離れたいだなんて思ったことは一度だってなかった。辛いことだって彼の一部で、切り離せるようなものじゃなかったから。

「朝なら煮魚がいいなあ。味噌と醤油どっちにしよっか」
「味噌汁があるなら醤油がいい」
「わかった。私朝からそんなにたくさん食べられないから、焦凍くん半分食べてね」
「構わねえけど、お前そのくらいは食えるだろ。このまえのケーキだって……」
「あれは朝じゃなかったでしょ……!もう、意地悪」
「わりィ」

 全部飲み込んで、全部吐き出して、そうして今がある。どうしたって彼は彼でしかなくて、私は私でしかなかった。私は半分こに出来ない焦凍くんがずっと好きだったし、焦凍くんはそんな私をそばに置いてくれた。私たちは別々の人間で、どうしたってひとつにはなれないけれど、離れがたくなるくらいの長い時間近くにいて、そうやって離れられなくなったらいい。
 考え込んでいたのがわかったのか、焦凍くんは半分ずつ違う瞳をこちらにむけて、きょとりと首を傾げた。半分ずつ違う髪の色も、個性も、とぼけた顔と真剣な顔も、どれもたったひとり、半分こになんかできない焦凍くんのものだ。私が大好きな、彼を形作るもの。

「……?なんかあったか」
「……ううん、幸せだなあって、思っただけ」

 楽しいときも苦しいときも、半分こして、溶け合って、生きていこうね。