平日の昼間、部屋に閉じこもっている人がいる。
体調不良というわけではない。
彼は風邪をほとんどひかないし、おなかが強いのか食あたりになることもほとんどない。
二日酔いにはしょっちゅうなるけど昨日は飲酒していないはずだ。
でも、気分は悪いかもしれない。


「ミスタ〜!開けてちょうだい!」


がんがんと乱暴に扉をノックしているナマエには部屋の主は答えない。
ジョルノからミスタを連れてこいと命じられたのだ。
恋人ですし適任でしょう。
そう浮かべたほほえみからはプレッシャーが含まれていた。
圧迫だ。
黄金の精神なんてもんじゃない。
容姿は、そりゃあかっこいいわよ。
街を歩けば女の子たちはキャーキャー振り向くわ。
特徴的な結い方をしている黄金の髪を風になびかせたら、後ろに女の子がずるずるついてくる。
ただ性格が難ありだ。
面食いか包容力のある人じゃないとボスの恋人になれないだろうな。
と、思考を巡らせている間、ナマエはずっと扉をたたき続けてる。
隣の住人が顔をだしてこちらの様子を見てきた。
こんなこと続けてても近所迷惑よね〜。


「1が4つ並んでるからって気にすることないわよ〜」


「バッカ!わざわざ言うんじゃねエ!」


「あ。開いた」


勢いよく開かれた扉からはたいそう顔色の悪い恋人の姿があった。
顔色が悪いといっても、元から健康的な肌色なのでずっと彼をみてる私だからわかることなんだけど。
顔色はともかく表情は絶望的だ。
初対面の人がみても、なんてひどい表情なんだと困惑するだろう。
こんな表情にさせてしまったのは私のせいではない。
11月11日。
先ほど言ったように1が"4"つも並んでいることが彼にとって問題なのだ。
開かれた扉の隙間に自分の体をねじこませ室内に入る。
後ろ手でドアを閉めて、そのまま愛しい恋人の頬を両手で包んだ。


「もう言わないから。ミスタ、そんな顔しないで」


ハァ〜っと重いため息をついたミスタに軽くキスされる。
距離は離れることなく、ふれあいそうなほど顔が近いままだ。
ミスタが軽く屈んでいるせいで、体がミスタに覆われているような錯覚を覚える。
至近距離からみた顔色は戻ったが、表情はまだいつも通りの快活さが見受けられない。


「ナマエよォ〜、おまえが来たってことは。その。アレだろ。ジョルノが呼んでんだろ?」


「さっすが。よくわかってるね」


「そりゃあ。ジョルノのことだからな」


「じゃあ、私がどういう風にボスから命じられたかわかるでしょ?あの人の笑顔すっごい怖いんだからぁ」


「他の日なら・・・っ」


駄々をこねる唇に自らの唇を押し当てて言葉を封じる。
見た目より柔らかい唇の押し返してくる感触に身を任せすぐに顔を離した。


「今日連れてこいって言われたの」


なにも4が4つならんでるわけじゃないんだからそこまで落ち込まなくても良いじゃない。
そう言ってもまだ行くのを渋るミスタ。
それでもいっちょまえにキスしてこようとする。


「もう・・・」


手でミスタの肩をおせばしゅんとしたままの顔であきらめた。


「不吉じゃない日になれば行ってくれるの?」


ただで続きはさせやしない。
恋人であっても、コレばっかりは別だ。
ギャングを統べるボスの命令だ。
いくら気心しれているジョルノとミスタの関係だと言っても、少なくとも嫌がらせは受ける。
ミスタだってわかっているはずだ。


「もちろんだ。だが、今日はなア〜〜〜」


チラッとこちらの様子を伺うような表情で、きちんと彼もわかってくれたと確認できる。
こんなことしなくても、ミスタはきちんとジョルノの元に向かってくれるだろう。
いかにもわざとらしいミスタの首にナマエは手をまわす。


「じゃあ幸せな日にしてあ・げ・る」


でもしたいのだ。
お互いにキスで渡しあっていた体温に煽られていた。
ナマエは口角をあげて笑うと、それに応えるようにミスタも白い歯をのぞかせていやらしく笑った。



以外に思うかもしれないがミスタは几帳面だ。
何かを切り分けるときは綺麗に等分するし、部屋も収納や掃除がいきとどいてとても綺麗である。
彼の性格が反映されたようにピッシリとベッドメイキングされたシーツは今やナマエのせいでぐちゃぐちゃだ。


「あっ・・・もうっ、すごい元気じゃない」


「おかげさまでな・・・っ」


「あっ、ちょっとぉッ、あっ、奥ぅッずんずんやめてぇ」


とろけきった肉壁を抉るように腰を突き落とされる。
ずちゃずちゃ鳴り止まない音は耳をふさぎたくなる。
それでもナマエの両手はしわくちゃになったシーツを何度も握りなおす。
四つん這いにされ片手で腰をつかまれたナマエにとって自由がきくのは上半身だけだ。
さらに、残りの手で肩をベッドに押さえこまれているのでお尻をつきだすような体勢のナマエは指先くらいしか満足に動かせない。


「はぁっはッああぁッ・・・あッ、あ、ひぁッ」


「ほんとコレ好きだよな、ナマエ」


「ふへぇ、いっ、あ・・・んッ、ふぁあぁッあッ」


圧迫感と不自由さで胸が苦しくなる。
最初のほうこそちょっとばかし優勢だったのに、今はされるがままだ。
相手の顔が見えないことと獣のような揺さぶる乱暴さからうまれるほんの少しの恐怖心がナマエの感度を高めていた。


「ねぇ、ッもぉ、あっあッあっ・・・んッはぁ、ねえッ」


「もう?早くねぇか?」


限界を訴えられ少し動きをゆるめたミスタは意地の悪そうな顔でナマエを見下ろす。


「はっ・・・んっ、ん、はやくないもん」


「もんって・・・そんな年じゃねぇだろ。クソッ。可愛いな」


「や、だあ、はずかしッ・・・・・・」


顔は見えなくとも声色で十分に伝わってくる愛情にナマエは顔を覆いたくなった。
優しすぎる愛情は照れてしまうのだ。
今更ピュアな恋愛を楽しめるとは思っていなかったのでミスタからのまっすぐな愛情は恥ずかしくもありうれしいものでもある。


「恥ずかしがんなって。ほら、顔みせろよ」


真正面を向くように体勢を変えられる。
先ほどまでの圧迫感から解放され落ち着くが、自由になった両手でナマエは顔を隠さずにいられなかった。


「やだぁ・・・やめてッ、ううっ・・・・・・みないでぇ」


丁寧に枕を頭の下にいれなおしてくれたのはうれしかったが、それを引き抜いて顔の前でかざす。


「さっきまでの威勢はどうしたんだ〜?幸せな日にしてくれんだろ」


「むりっ、そんな余裕ない」


「そう言ってくれるだけでも男冥利につくぜっと」


「っ!、あっ、んっひぃんッ、はげしッ・・・」


枕をはがされてどこかに投げられてしまった。
急くように覆い被さるミスタがナマエの上から退いたのはすっかり日が沈んだ後だ。



「よく連れてきましたね。ここに来るまで今日がおわりそうなくらい時間がかかったことには目を瞑りましょう」


「ええ、そうしてください。じゃあね〜ミスタ。ボス、失礼します」


ひらひらと手を振り防弾が施された丈夫な扉を抜けて出て行ったナマエをジョルノはいつもと変わらない微笑で見送った。


「ミスタ〜ナマエハ大丈夫カヨ〜」


「送ッテヤラナクテイイノカヨ〜」


「足フラフラダゼー!」


「抜カズノ二発ハナマエもツラソウダ!」


「だーーーッ!!黙ってろピストルズ!!!」


「はぁ〜。まったく。相変わらず貴方のスタンドはおしゃべりですね」


ジョルノは眉間に皺をよせてため息をつく。
ナマエにはスタンド能力をもっていない。
そのため、行為の最中はもちろん彼女がジョルノにミスタを連れてきたときピストルズがやかましく騒いでいたことも知らない。
知っているのはミスタとジョルノだけだった。


「貴方たちの夜の生活なんて知ったって迷惑なんですよ」


ぼやくジョルノに対して俺だって知られたくねーよ、なんて強く言えずに黙ってピストルズたちに睨みをきかせることしかできないミスタ。
不吉なことは起こらなかったが、良いのか悪いのかわからない一日だった。


「この書類に目を通しておいてください。機密事項です。確認したらすぐに処分を」


ただ、この一日がどうであれ今後もナマエとの仲は続けていきたいし、ギャングとして生き続けることになるだろう。
明日になれば1が4つもある故にミスタが抱えていた不安も立ち去っていつも通りに戻る。
壁につけられた時計が控えめに鳴った。
11月12日だ。








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