夕暮れの教室で形式的に彼氏彼女の関係になった僕らは、恋人らしいことはしていないが友達らしいことはしていた。
昼休みを知らせるチャイムがなると途端に教室が賑やかになる。


「花京院くん!」


「ああ、今いくよ」


ナマエにはしてやられたと思っていた。
笑顔のナマエを前にした今もそう思っている。
教室内だろうがどこだろうが好意的に僕に話しかけ、それを目撃しているクラスメイトが大勢いる。
そのうちの誰かが付き合ってることを周囲の人に言いふらしたか噂か何かで広がったんだろう。
いまでは公認のカップルだ。
たまったもんじゃない。
飽きたら別れようと思っていたのに、ここでアッサリ別れたらクラスから非難を浴びるのは僕だ。
たとえ穏便に別れたとしても女子は当事者ではないのに、ここぞとばかりに相手を責めるのが好きだ。
しかもよりによってナマエは声の大きいグループに属している。
他人の評価は気にしないが、もめごとはできる限り避けたい。
極力穏やかに答えて屋上へと急ぐ彼女を追いかけた。
周囲が僕に投げかける視線は生ぬるい。
ナマエは毎日デザートにチェリーをもってくる。
それを舌の上で転がしていると決まってじっとこちらを見つめてくる視線に気づいていた。
毎日だ。
慣れろと言われればそれまでだが、あいにく僕はそこまで神経が太くないらしい。


「あんまり見ないでくれるかな」


「うん」


「食べにくいんだ」


「うん」


「まだ見てるじゃあないか」


「っ!あ、ごめん!!」


そこでようやく自覚したのか。
というか、僕の話をちゃんと聞いていたのか?
頻繁に好意を伝えてくる割りには対応がないがしろな気がする。
それともここまで言わなきゃならないのか?
面倒な奴だなぁ…
小食なのか僕よりも早く食事を済ませたナマエは膝に乗せた教科書に視線をおとす。


「それ今日の宿題だね」


「そうだよ〜、わかんなくって」


「ふーん」


たしかにノートはまっさらだし、シャーペンを持つ手もとまったままだ。
しばらくナマエの様子と空を眺めながら最後のチェリーを口に放り込む。
僕の好きなものを知っているというのは嘘ではなかったらしい。
どこで見つけたのかわからないエメラルドグリーンの色をしたプラスチックの小さなタッパーにチェリーつめてくる。
おかずの味付けは普通。
ときどき美味しいのもあるけれど、それは稀だ。
2日か3日に1品程度。
ごはんは柔らかすぎ。
言おうかと思ったけれど、少しの量をあまり噛まずに飲み下してしまうナマエを見てると柔らかくないとお腹を壊すんじゃないかといらない心配をしたからやめた。


「教えてあげようか?」


「え!ほんと?」


「嘘はあまりつかないよ。どこが分からないの」


「えっとね〜」


健気につくしてる見返りに勉強を教えるくらいなら良っか。
そう思っていた自分を軽く小突きたい。
ちょっと教えるだけじゃどうしようもならない。
こいつ馬鹿だ。


「そんな公式しらないよ〜〜〜」


「はあ、入学したころにやったはずなんだけど」


「うーん…」


馬鹿は馬鹿なりにきちんと宿題をこなそうとする努力はしていたらしい。
こんな問題もわからないんじゃあ今までの宿題はどうしてたのか尋ねたら、なんでもいいから適当に書いてたと言われた。
何もしないよりかは良いが、それじゃ何もしないのと一緒だ。


「ちゃんとした勉強会しよっか」


「いいの!?」


「いいよ。復習にもなるし」


「ありがとう花京院くん!!」


「じゃあ明日、一年のころの教科書も持っておいで」


「あ…あるかなぁ…?」


顔を見れば誰でもわかる。
教科書捨ててるな。


「どうせ僕の家で勉強会するつもりだったしいいよ。捨てたなら捨てたで。僕の使えば」


「花京院くんの家!?」


「なにか都合わるい?」


学校ではこれ以上ナマエと一緒にいるところは見られたくない。
習慣ともいえる休み時間半分くらい話すことと昼食を一緒に食べることは今更やめられないが、わざわざ見られる機会を増やすことはない。
ナマエは赤くなった顔を勢いよく横に振っている。
「ぜぜぜ全然!なにもないよ!!」
別に手を出すつもりはないから安心してていいのに。
とりあえず今日の宿題は僕の回答を参考させることにした。
ナマエの字は相変わらず読みやすい。



インターホンのチャイム音が聞こえる。
今日は休日だ。
僕は自室でゲームに勤しんでいる。
下の階で少しバタバタと音がしてからすぐに母さんの大きな声が聞こえてくる。


「典明、ナマエちゃん来たわよ」


「わかった」


ゲームを一時停止してドアを開ければ目の前にナマエがいた。


「おじゃましてます、花京院くん」


「典明でいいって。はい、どうも」


未だに苗字で呼び続けるナマエを部屋に迎え入れる。
僕としては苗字のままで良いんだけど、一応付き合っている体だ。
両手で持つトレイには母さんにもたされたのかティーセットと菓子がのっている。
ああ、菓子はナマエがもってきたものかもしれない。
馬鹿なんだが礼儀とかそういうものはしっかりしていて、現に一般的にみて厳しいと思われる母さんに気に入られている。
さて、もう一度言うようだが休日だ。
最初の内は放課後だけだった勉強会が休日にまで侵入してきた。
なんでだろう。
ガチガチに緊張していたナマエはどこへ行ったんだろう。
すっかりわが家のようにリラックスしている。


「なにしてんの、これ」


「F-MEGA」


「えふめが?レースゲーム??」


「そう」


ナマエが勉強道具をバッグからとりだし始めたのを確認してゲームを再開する。
ゲームをしている間はおとなしく、後ろからはペンの走る音しか聞こえない。
家でやってくればいいのに。
あ、操作まちがえた。


「はぁー…」


「どんまいどんまい、もう一回遊べばいいよ」


「もういいよ。どこまで済んだの?」


ゲーム機の電源をきってナマエの勉強をみてやることにする。
僕がゲームしていても構ってほしい、なんて面倒なことは言わない。
万が一でもそんなこと言われたら放っておいてしまうかもしれないが、大人しく待つナマエには勉強くらいはしっかりみてやろうと思う。


「ここ」


「これより前はできてるの?」


「…ちょっとしかできてない」


「じゃあやろうか」


「うん!」


きちんとした持ち方をされていない筆記用具。
今までよりも筆記用具を持つ時間が増えたのか最近ペンダコができたようだ。
勉強会を長い時間しているとそこが赤くなって痛そうだなあなんて考える。
いまはまだ赤くない。


「ナマエちゃんケーキ食べる?」


ノックもされずに開かれた扉から母さんが顔をのぞかせる。


「いいんですか?!ケーキ好きです!いただきます!!」


「ちょっと待っててね」


そう言ってすぐに母さんはひっこんでいってしまった。
僕の周り、クラスメイトや親からナマエの勢いにとり込まれていっているきがする。
嫌だなあ。
面倒くさいなあ。
届いたケーキがチェリーのタルトでも、 ナマエから離れるプランが一切たてられないことには変わらない。
それでもタルトは美味しい。
特にチェリー。
チェリーだけでいいのに。
余計なものなんていらないのに。


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