DIOの部下は優秀だった。
DIOがここ最近感じていた視線の原因をなんとものの1日で見つけ出した。
早すぎるよ。


「ナマエ…これも知っていたのか」


怒気のこもった声で言われる。
空気がピリピリと震える様に緊張している。


「ジョースターの血族が残っていたことを知っていたのかって聞いているんだ」


「…はい」


「ハァー…」


もちろん知っていた。
だが、話すにはリスクが大きすぎた。
原作よりも早くDIO側が仕掛けると、承太郎たちの被害がでてしまう。
DIOとの直接対決前に、承太郎が再起不能になればおそらく世界を倒せるスタンドはいない。
DIOだけを助けるならば早め早めに手をうって、まだスタープラチナを制御できていない承太郎を狙えばいいのだ。
だが、それはできなかった。
今、この世界では承太郎やDIOは漫画の中の紙の中でのキャラクターではなく”生きている”のだ。
ナマエにはまだ生きているものを殺す覚悟ができていなかった。
ただただ臆病なだけだ。
この戦いを通して命をおとすであろう花京院やアヴドゥル、イギーにもナマエは愛着をもっていた。
とりわけ、DIOの館内で出会った花京院には死んでほしくなかった。
まだ肉の芽を植えられていない彼の瞳には怯えにまじって生きる力も感じとれた。
承太郎を殺すためには、おそらく花京院は肉の芽の餌食になる。
DIOの命令通りに承太郎やジョセフの血液を採取したあとも、彼は肉の芽に囚われ続けるのだ。
ポルナレフも妹の敵をとれると信じて肉の芽を植えられてしまう。
二人ともDIOの駒になっていくことを考えると耐えられなかった。
活き活きしている彼らの姿を奪うことはできなかった。
それに、介入して物語の流れがナマエが知っているものと変わってしまうという懸念もある。
色々なことに雁字搦めになったナマエはある程度物語をなぞった後に介入しようと決めた。
遅くてもポルナレフが肉の芽から解放された後だ。
ジョセフや承太郎のことをDIOに言わなかったことで、彼からの信用がなくなるかもしれない。
DIOはため息をひとつつくと、眉間に皺を寄せながら何かを考えているようにうつむいている。
苛立たしげに指でとんとんと早めのリズムを刻んでいる。


「何か考えあってのことだろう?」


「うん。…黙っててごめんなさい」


「これは私のためになったのか」


黙ってたのはDIOのためじゃない。
自分のためだ。
即答できずにいるとチラリと目線だけをナマエにやったDIOがまたため息をつく。
まあ良い、まるで自分に言い聞かせるようにDIOは呟き顔をあげた。


「この不健康な体もやつの血縁の血があれば少しは馴染むだろう」


彼の表情はすっかりいつもの通りに戻っていた。


「花京院…」


「ああ、ハイエロファントの。奴がどうした」


「承太郎はスタンドに目覚めたばかりだったと思うの。だから同じ国で年も近い彼を日本に行かせたらどうかな」


「確かにそうだな」


よし、まずは花京院を日本に行かせることができそうだ。
原作通りだ。


「それで、肉の芽を…」


「肉の芽まで知っていたのか」


「あ、うん、知ってるよ」


「肉の芽ならもう花京院に植えてある」


「え!いつの間に?」


「お前と話させた後だ」


なら大丈夫だ。
ナマエの知っている展開が待っているだろう。
肉の芽を植えられた花京院が承太郎に勝負を挑み、敗北するが肉の芽は取り払われる。


「そう決まったら早速、ジョータローの元に向かわせるか」


片言な承太郎呼びに微笑ましく思うが、すぐに思い出すことがあった。


「あ……」


「どうした」


「あんまり早く行かせても、承太郎は留置所にいるかも」


彼の親族か、それに近い者じゃないと面会できないだろう。


「少し経ってからなら学校に行くだろうから、そのときにでも」


「…ジョータローはジョースターの血をひいているんだよな?」


「もちろん。そうだよ。どうしたの?」


「捕まるようなことをする奴じゃあなかったんだがな…」


DIOはジョナサンのことを思い出しているのだろうか。
でも彼だって隠れてパイプをやっていたりする。
人並みにやんちゃはしていたのだ。


「あの、DIO。黙っててごめんなさい」


「さっきも言っただろう。二度も言わなくていい」


「うん」


DIOに全てを伝えないことが、DIOを裏切っているように感じて何度も謝らずにはいられない。


「寝なおすか」
そう提案してきたDIOの言葉で思い出す。
忘れていたが今は真昼だ。
確信はできないが、報告は寝ていたところを起こされて行われた。
DIOの存在をかぎまわる存在が見つかったのだ。
早急に対応して彼の脅威となる可能性のあるものは失くしたいと思っているエンヤがDIOの部屋にどたばたと入って来た。
寝ていたところを起こされたことにも、報告内容にも腹を立てたDIOの空気を感じ取って「後からまた来ますじゃ」とおずおずと部屋を去った彼女の姿は少しかわいそうだった。
DIOのためを思ってやっている。
他人から見てもはっきりとわかる彼女の思いやりはこれからも続いていくんだろう。
ナマエはすっかり目が覚めてしまったが、DIOの提案をけることもできずに頷いて横になる。
眠れないけれど目を瞑ればぼんやりとした暗闇が瞼の裏に広がる。
いつまでその闇をみていたかわからない。


首になにかが当たっている。
ぼんやりとした頭でそのことに気づく。
なんだろう。
少し冷たいような温いような、なにかが首にまとわりついている。


「起きたか」


DIOの声がして目を開けたらDIOが私を見下ろしている。
逆光になって彼の表情はうかがえない。


「ん。え?」


ナマエは首にDIOの手が添えられていることに気づく。


「ナマエ」


「なに?なに??」


大層あまい声でささやかれる。
吐息交じりのそれに居心地が悪くなってしまう。
いつもと様子が違う。
どうしてしまったんだ。


「お前の血が欲しい」


「っ!?」


皮膚が長い爪で軽くひっかかれる。
今なんて言った?
血が欲しい??なんで私に言うの?


「お腹すいてるの?」


「どうだっていいだろう」


血を吸われたら、カラカラに干からびてしまう。
死にたくない。


「死にたくないっ・・・」


「加減はできる」


「ゾンビもやだ、吸血鬼もやだ」


「少し頂戴するだけだ。体質は変わらない。…安心しろ」


「っ…」


DIOの下でぷるぷると震えるナマエ。
怖いのだ。
DIOの吸血のありさまなんて知っている。
数秒の間に一人の人間が皺くちゃになって死んでしまう。
恐怖のあまり目に涙をたたえ、呼吸も細かくなる。
加減はすると言ってもどれくらいだろう。
指を首にずぐりと刺しこまれるのだろうか。
昼のことをやっぱり怒ってて、このまま殺されるのかもしれない。


「指っ…」


「指?」


「指きるからっ…そこからじゃだめ?」


「フフッ」


震える声で尋ねたら首からDIOの手が離れた。
機嫌の良さそうな笑い声が聞こえるが、依然ナマエの体を覆ったままのDIO。


「???」


「自傷を選ばなくてもいいだろう」


DIOの顔が近づいてきた。
なんだなんだとナマエが内心慌てていると、軽く音を立てて額に口づけがおとされる。
驚きだ。
DIOは驚きのあまり体を屈めたナマエの両肩をおさえつける。
ふわりと薔薇の香りがただよう。
良い香りだ、なんて考える余裕はナマエにはない。


「ひッ!?!?」


続けざまに予想外のことが起こりパニック寸前のナマエをさらに追い詰める様にDIOはナマエの首筋にかみつく。
ぷつりと破れたような皮膚の感触が生々しい。
逃げたくても逃れられずDIOの下でじっと耐えるナマエ。
痛痒いような気がする。
すぐ横にあるDIOの表情を見るために頭を動かすこともできず、じっと天井を眺めることしかできない。
時間にしてみればほんの数秒。
しかし、ナマエにしてみればそれ以上に感じられた。
かみついた箇所をぬるりと舐めたのを最後にDIOの体はナマエの上から離れた。


「なかなか美味いではないか」


極度の緊張で息をきらしているナマエの頭を撫でる。
DIOの纏っている空気はいつもの穏やかなものに戻っている。
ナマエが震える手で首筋を確かめるように触るとほんの小さい傷が確認できた。


「指から吸血するんじゃ…」


「別に指からだけというわけではない。怖がらせてしまったか?」


当たり前だ。
怖かった。
DIOはまったく悪びれていない様子だ。
先ほどの吸血は暇つぶしなんだろう。
それでも驚きと緊張と恐怖がごちゃ混ぜになって全身を震わせていたナマエにとっては暇つぶしでは済ませられない。
頷きつつも恨めしい想いをこめてじっとり見れば撫でられる。
まただ。
いつもと同じだ。
子どもをあやすように。
ゆるゆると撫でられる。
悔しいが、こうやられると嫌でも落ち着いてくるのだ。
あんなに心を乱された相手にこんなにも落ち着くのだ。
人と比べて大分低い体温の手のひら。
先ほどまで首に添えられて恐怖の対象だったのに。
はぁー、長いため息をついて枕に顔を押し当てる。
機嫌はなおったか?なんて聞いてきた。
うんうんと頷く。
先ほどまでたまりに溜まった涙が少し枕に滲んだが、息苦しくなって顔をあげるころには乾いてしまうだろう。



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