夕焼けというのはいけない。
どうにもセンチメンタルな気分にひきこまれる。
そんなとき決まって僕の体からするりと飛び出るエメラルド色のコイツもいけない。
孤独を感じていたが、本当の孤独じゃあない。
そりゃあコイツが見えるがいないという点では孤独だ。
それでも落ち込んだり何かを考えたりすると出てきたりする。
自分の分身だが、その輝きが一人ではないのだと感じさせる。
綺麗だからってなんだ。
自分自身は綺麗なんて言えない。
けたたましい吸引音がとまった。
僕の事は気にしなくていい、ひっこんでいてくれ。
強い自分なんてどこにもいない。
人気者の自分もどこにもいない。


「なに考えてるのー?」


綺麗な黒板消しを両手に持って教室に戻ってきたのはナマエだ。
日直だった僕らは放課後こうして残っていた。


「なにも。日誌かきおわったし、帰ろうか」


広げていた日誌を閉じようとすると小さな手がすっとその動きをとめた。


「待って待って、まだ書き終わってないじゃん」


「え?」


「ほら、ここ抜けてる」


指さされた先に視線をおとすとたしかに書き忘れていたようだ。
すっかり書いたつもりだった。


「はあ、ごめん。すぐ書く」


考え事をしてたからかな。
急いで空欄をうめていると隣にイスをもってきたナマエが座った。
近くない?
真横に座っているナマエをチラリとみると日誌を見つめているようでおとされたまつ毛が意外と長くてびっくりした。
いや、そんなこと思っている場合ではない。


「花京院くんって字きれいだよね」


「そうかな」


いつもより近くで聞こえる声は少し小さい声で、静かな教室では丁度いい。
出席番号が近いからか、しゃべる機会は自然と多い。
でも授業のこととか、こういう日直のこととか、そんなことくらいだ。
それ以外で話すのは今が初めてかもしれない。
ナマエは休み時間は派手なグループにいる。
そこで周りの愚痴や自慢話をうんうんと聞いているような子だ。
見た目は、まあ可愛い方だと思う。
ゲーム仲間からも可愛いという話を聞くから万人受けするような顔だろう。


「ちょっとうらやましい。私、ほら、あんまり字綺麗じゃないし」


「そんなことないよ」


綺麗と言いきるには少し難があるが、丁寧で読みやすい。
少しずつ話をするナマエにあわせるようにこちらも話す。


「あと身長高い」


「まあ高い方だとは思うけど」


「立ってると見上げるのしんどくて、座ってると話しやすい」


「そうなの?」


「うん、そうなの」


僕より高い人も山ほどいるだろう。
それに座ったってただでさえ小柄なナマエとは視線があわない。
まあ、今ナマエは日誌を見てるけど。
もう少しで書き終わりそうだな。


「あとちょっとクラスで浮いてるよね」


「否定はできないね」


一瞬ペンが止まるがすぐに再開する。
あと一行だ。


「よく話す子たちも友達って感じしないし」


「………」


丁度書き終えた。
それでもナマエは話すのをやめない。


「ずっと当たり障りのないように話すし」
「さっきも僕は孤独ですなんて言いだしそうな目して窓みてたし」
「ごまかし笑いへたくそだし」


「…何が言いたいんだい?」


ナマエの方を見る。
イライラしてきた。
一瞬で出て来た法皇の緑がするりとナマエの体に向かってはしる。
首のあたりにするすると触手を伸ばす。


「っ!?!?」


今まで日誌を見つめていたナマエはびくりと体を震わせて首に手をあてる。
それに気づいて戻るよう意識する。
今、僕は何をしようとした。
彼女に危害を加えようとした?


「どうしたの」


「な、なんでもない」


キョロキョロと周りを見回したナマエは手をおろす。
こちらをじっと見つめるナマエは言葉とは裏腹にまだ怯えてるような表情を浮かべている。
それでも口を開く。


「あのね、何が言いたいかって私花京院くんが好きなの」


「はあ?」


「それで好きなものとか色とか、そういう外側の部分は知ってるんだよ?でも内面的なことは全然しらなくって、知りたいなって。何考えているんだろうって。気を悪くしたならごめんなさい…」


おちつかないのか手を上下に動かしながら、つまりながらもそう言いきったナマエに対して僕は間抜けな声をだしながらしかめ面を返す以外に何もできなかった。
好きだ?
好意のある相手をボロクソに言う奴がいるのか?
いや、目の前にいるナマエはそうらしい。
まだテンパっているのか手をもじもじしている。


「僕と付き合いたいの?」


孤独を紛らわすにはだれかといるのが一番だ。
一緒にいるのにこの緑色の化身がわからないという事実に孤独を煽られることもあるが、退屈しのぎにはなる。


「うん!」


こくこくと頷くナマエに僕はちっとも笑わずにいいよと返した。
ほころぶように笑うナマエには僕の表情が見えてないんだろうか。
きみのことが好きだなんて僕は一言もいっていない。
一切笑いかけていないし、柔らかい態度で接してもいない。
それでもナマエはいいんだろうか。
こうして僕たちの恋人ごっこは始まった。


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