じゃれにいった手を払われる。


「やめろ」


「ふふふ」


きょうは仕事があったらしい。
ただでさえ傷だらけの体に新しい傷をつけて、デーボはナマエの部屋にやって来た。
言葉の割には優しい声色に嬉しくなっちゃう。
ベッドに腰掛け傷の手当をしている彼から血で濡れた服をかっさらう。
どこまでが彼の血で、どこからがターゲットの血か。
私にはわからない。
こんな派手に汚れてしまったら洗ったって意味がない。
ぽいっと服をゴミ箱に投げ入れたら怒られた。


「あのな、もしバレたらどうすんだよ」


すでに何度も拠点をかえている。
今さらなんだって言うんだ。


「デーボが守ってくれる」


「はぁ」


ため息をついたデーボが頭を無遠慮にわしゃわしゃなでる。
無骨な指に自分の髪が絡んでいくのを感じる。
最後に梳かすように指を滑り抜けてしまえば毛束が反動で揺れて、もっともっととせがんでしまう。
ナマエは心地よさそうに目をとじてその感触をあじわっていた。


「なでて」


せがめばせがんだだけ与えてくれる。


「わたし、ちゃんとおとなしく待ってた」


「ああ」


「予定より1日と半」


「…」


「帰ってくるのが遅い」


「悪かったな」


「連絡してよ」


「できないのくらい分かってるだろ」


「うん」


「ああ、良い子だ」


額にかさついたデーボの唇を感じてナマエが目をあければ彼の顔は至近距離だ。
こんな駄々をこねるのは私の我儘だ。
彼の仕事を知っているなら、色んなことを受け止めなければいけないのだ。
頭ではわかるけれど、心が追い付かない。
ナマエは会えなかった寂しさをぶつける様に、新しい傷跡に歯をたてる。
ちょうど喉のあたり。
ぎりぎりと少しずつ力をこめて、傷をふさいだばかりの薄い皮膚を傷つける。
それでもデーボはナマエを突き放したり止めるよう言ったりしない。
これがナマエなりの甘え方だというのを知っているからだ。
それに、真珠のように白く小さい歯がどんなに自分を傷つけようが、それはただ幸せなことだった。
暗殺者として、傷だらけの醜い体にすがるナマエはただただ愛おしいだけだ。


「ねぇ」


「なんだ」


「あんまり無理な仕事は引き受けないでね」


喉元の傷は自分でつけるはずがない。
ターゲットか、その身辺の人間の反撃の証だ。
すこし位置が違えば、もう少し傷が深ければ失血死していたかもしれない。
ナマエは不安で不安でたまらない。


「余計なお世話だ」


開きかけた傷口からほんの少しの血が流れる。
こんな不安な気持ちになるなら、デーボの恨みをかって死んでしまいたい。








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