昨晩、リーダーの部屋にナマエが入った。
不用心に鳴らす足音が暗殺を生業にしている俺の耳に入るのは仕方のないことだ。
別に盗み聞きをしようとしたわけではない。
防音は割としっかりしている。
廊下の音は注意していれば聞こえる程度だし、隣室の音はよっぽどのことがない限り聞こえない。
ナマエは何かを致すには短い時間で自分の部屋に戻った。
ちょっかいかけてやろうとしても、そんな暇もなかった。
どうせリーダーのお小言でも聞かされたのだろう。
そう思って寝つきの悪い体を無理やりベッドに沈めた。
すぐに眠れるわけじゃあない。
それでも横になっている方が疲労もとれるし、いつの間にか眠れるかもしれない。
俺の起床時間はチームの中だと遅いほうだった。
たいてい俺かゲームをして夜更かししたギアッチョのどちらかが最後に起き出す。
今日は俺が最後みたい。
「おはよ…あれ、ナマエちゃんは?」
「遅ぇんだよメローネ。アイツはまだ起きてない。新人のくせにたるんでやがる」
俺の姿を確認するなり朝食の用意を始めるプロシュート。
最初から全員分を一気に作っておけばいいのにって前に言ったら、冷めちまうだろうが!って怒鳴られた。
マメなやつだと思う。
「起こしてこよっか?俺の分と一緒に作っちゃえば?」
「テメーがか?」
「そうそう」
「手ェだすんじゃねーぞ」
「ダイジョーブ!あの子ぜんぜん好みじゃないし」
東洋人だからか顔が幼すぎる。
俺はもっときつめのすっとした美人が好きだ。
あと体が貧相だ。
人種の違い、とまではいかないがいささかボリュームに欠ける。
「ハッ。節操なしのくせに良く言う」
「あーあー聞こえなーい」
別に誰でも良いわけじゃないし。
それをプロシュートが知るわけもない。
言わせておけばいい。
「起きてる?朝だよ」
ドアの前で声をかけても向こうからは物音ひとつしない。
あーこりゃ寝てるな。
施錠をしないように、と言ってあるのでドアノブを回せば扉はすぐに開く。
何かあったときトロクサイお嬢さんをすぐに保護できるようにだ。
鍵がついてたってチームのみんなならすぐに蹴破ったり壊したりで中に入れるけどね、そこは気にしないでおこう。
ベッド傍に立ってもナマエはだらしない寝顔を晒したままだ。
まぬけだなぁと見つめているとナマエの枕元におかれた紙切れが目に入る。
なにこれ?
手紙?
少し皺のよったそれを手にとってみる。
予想通り手紙だ。
読んでみると、暗殺チームにまわされるだけあって普通じゃない子だってすぐわかる。
面白いことになりそうだ。
っていうか、面白いことにしてしまおう。
「ナマエちゃん、おきて」
「んんー……ぁ、あれ?」
手紙を元あった場所に戻し、ナマエの頬をぺちぺちと軽く叩くとぼんやりした瞳をこちらに向けられた。
東洋人らしい濃い瞳の色だ。
吸い込まれそうだな。
「おはよう。俺のこと覚えてる?」
「メローネさん?おはようございます」
「よくできました。朝ごはん、プロシュートが用意してるから早く降りておいで」
「!!うん、わかった!」
でも事態を引っ掻き回すのはまた後で。
朝食を食べに大人しく部屋を出て行った。
「おいしい!おいしいですよ!プロシュートさん!!!!」
遅い朝食をほおばりながら歓喜の声をあげているのはナマエだ。
満面の笑みを浮かべている。
「んなこと知ってるから黙って食え」
そう言いながらもプロシュートはまんざらでもない様子だ。
「ご、ごめんなさいッ!…ん゛っ」
「おいおい、しっかりしろよ。ほら水」
「〜っはあああ…助かりました。ありがとうございます。えへへ」
「しっかり噛んで食えよ」
まるで母親のようにナマエの世話を焼くプロシュートを見ながら、なんだコレと思った。
ペッシの前例があるから、世話の焼ける子が好きなんだろうなあと感じていた。
まさに手のかかる子供のようなナマエに対してギスギスした空気が一切ないことがもどかしい。
こんな生ぬるい朝は初めてだ。
適当に朝食を平らげて皿をシンクに戻す。
水を流して軽く皿の汚れをおとす。
「ごちそうさまでした!」
ぱちんと手を合わせて、ゴチソウサマというナマエの声が聞こえた。
たしかコレは日本の習慣だったっけ。
「…慣れねぇな、それ」
「でも、ごちそうさまといただきますだけは続けますよ!わたし!」
「寝起きじゃないのかよ。元気だな」
「プロシュートさんの美味しいごはん食べたら誰でも元気になっちゃうよ!!」
「はいはい。そいつはどーも」
パタパタとルームシューズを鳴らしながらナマエが隣にやってきた。
「あ、メローネさん。わたしがお皿洗うからゆっくりしててよ」
「んー、じゃお言葉に甘えて休むよ。後で部屋に遊びにおいで」
ぎゅっと腕まくりをして目をキラキラと輝かせている。
家事が好きなのかな。
「はい!まかせてください!えっと、メローネさんの部屋は…」
「君の部屋から一番はなれてる部屋。覚えた?」
「うん!」
「ベネ。じゃあまたあとでね」
すこし物覚えの悪い彼女に部屋の位置を教える。
たしか昨日ひととおり紹介したはずなんだけど。
覚えられなかったみたいだ。
「おい」
リビングを通り抜けて自室に帰ろうとした俺を呼びとめるのはプロシュート。
ソファにだらしなく座っているがそれだけで様になる。
俺も自分の容姿に自信はあるが、コイツはまた別格だろう。
「なに?」
「趣味じゃねぇんだろ。どういうつもりだ」
ナマエを部屋に呼んだことに対して気に入らないようだ。
「アンタが思ってるようなことはしないよ」
たぶん。
「ちょっと採血するだけ」
採血するのは嘘じゃない。
彼女に何か起こった時はすぐに探し出せるように、そうリーダーから言われている。
「…そうかよ」
まだ釈然としない表情のままだが、それに続く言葉はないようだ。
話は終わったし部屋に戻って準備してよう。
さっさと準備を済ませパソコンをいじって待っていると、のこのことナマエがやってきた。
「メローネさんの部屋初めてはいった」
そりゃそうだ。
来たばかりなんだから当たり前だろ。
「感想は?」
「ごちゃっとしてますね」
「そうかなー。片付けてるつもりなんだけど」
「綺麗ですよ!リゾットさんの部屋に比べて物がいっぱいだなぁって」
「そーいうことか。なるほどね。あ、そこ座りなよ。で、手かして」
リーダーに比べたらほとんどの人間の部屋は物が多いよ。
適当なイスに座らせて、自分も向かい側に座る。
片方の手首をとる。
彼女には採血する、とは一言も伝えてない。
急に手をとられれば不審に思うだろうに、そんな様子はみじんも感じさせない。
そのまま手をにぎる。
「プロシュートに何か言われた?」
「気を付けろよって言われました。私が死んだらチームの方に迷惑かかりますもんね」
何かずれている。
アイツが気を付けろよっと言ったのは事実だろう。
でもその言葉の意味はナマエが考えているものとは違うはずだ。
この建物の中にいる限り彼女の安全は保障されてるも同然。
俺たちが生きてる限り死ぬはずがない。
死ぬとしたら、その時はか弱い彼女が気を付けていてもどうしようもない。
アイツが言いたかったのはケダモノがいるから自分の貞操に気を付けろ、そういうことだ。
そんなことも分からないナマエはやっぱり頭がおかしいのかもしれない。
「君ってさ、ボスの側近に飼われてたんだね」
「え?」
「チョコラータ。だっけ?」
「うん!チョコ先生だよ。…いたっ」
話ながら前触れもなく小指の先を少しだけ切る。
「ごめんね、リーダーに言われててね少し血が必要なんだ」
「そうなんで、っん」
ほんの数滴だけシャーレにおちた血液を確認して、傷口ごと小指を咥える。
少し舌を這わせればナマエの緊張が指先から伝わった。
水仕事なんかとは無縁の柔らかい指だ。
さっきは率先して皿洗いを引き受けてたが、普段はそんなことしないんだろう。
それにしても愛称で呼ぶほど懐いてたのか。
名前を聞いたとき少し嬉しそうな表情をしていた。
憎んでいないのか。
ギャングなんて日陰者に良いようにされる状況に不満はなかったのか。
「ねぇ、俺にも同じようなことしてくれないの?」
「っ………いいんですか?」
「なにが」
「えっちなことしていいんですか?」
「良いって言ったらしてくれる?」
耳元で息をふきかけながら囁けば、こくこくと無言で頷くナマエ。
なんでチョコラータのことを知っているんだ、とか。
なんで囲われてたって知っているんだ、とか。
そういう追求がない。
「じゃあ、良いよ」
俺の言葉に対してぱあっと明るい表情を浮かべるナマエ。
馬鹿すぎて不気味だけど、なんでこんな可愛く見えるんだろうね。
「じゃ、じゃあ、失礼します…」
変にかしこまりながらソファからナマエは降りて跪く。
チュッ
そのまま体を屈ませて足元に軽くキスをおとされた。
「どうぞ」
チョコ先生とやらは相当変態らしい。
しっかり仕込んでやがる。
普通の女じゃ間違ってもしない行動に少し気がよくなる。
こんなことされてると他の男の影が見えると萎える奴もいるだろうけど、パッパと性欲処理するにはこういう女のほうが良い。
「脱がしても?」
「あーめんどくさいから下だけ。自分で脱ぐからちょっと待って」
適当に脱いだものはそばに落とすと、ナマエはすぐ肉茎に沿わせるように細かい口づけを降らしていく。
「んっ…っむ…あっ………っ……ん」
飴を舐めているみたい。
全てを味わおうとするような熱心さにじわじわ快感が上ってくる。
「ハハッ…ん……ベネ……」
「…っはあ、んぐっ……っ…っ、ここれすか?」
「あっ…そう、そ、っう」
鈴口をちゅうっと吸い上げられるようにしながら手で竿を擦られる。
そこが良いと言えば、もう一度、何度でもそこを攻めてくる。
もちろん、そればっかりってわけじゃない。
ぱっくり銜え込んだとおもったら先端を喉に絞れる。
裏筋を丹念に舐めあげる。
強さもタイミングも文句のつけようがない。
それに
「んっ…あっ……おっきー…んむっ…」
「あっ、びくってしたぁ…っはあ……」
「んぐっ………けほっ…や…っぐ…」
いちいちバカ正直に言葉をだす。
それも嬉しそうに。
薬きめてるんじゃないか?って思うくらい行為に没頭する姿は扇情的だ。
「あーっ…・そろそろイきそ」
「!っえ、もう?」
口の周りを涎だらけにした顔で聞かれる。
もうってなんだよ、もうって。
俺は早漏じゃないし、普通なはずだけど。
「そ。もう出ちゃいそう。口に出していい?」
「あむっ」
「っく…あっ……はッ………」
応えがかえってくる代わりに再びナマエの暖かい口内がまとわりついてくる。
「あ、っ、あ“っ…くっ…ナマエッ……っはあァっ出るッ……!…っ…………」
動きが早くなり、吸い上げられる力がより強くなったとき、堪らず吐精した。
今まであつくて仕方がなかったものがすっーと抜けていく虚脱感と久しぶりの気持ちいいフェラに茫然としてしまう。
とどめとばかりに、残りもじゅうっと吸い上げられてしまい、軽く腰がひける。
「……っん、く。…はあ、飲めたぁ」
精液を嫌な顔せず。
むしろニッコリと笑って報告してくるナマエ。
「よしよし。良い子だね」
「えへへ」
ナマエの頭を撫でながらドアの外に注意を向ける。
これ以上ナマエをそばに置いたらプロシュートが不審に思って部屋にくるかもしれないから。
俺の予想通り扉の向こうの遠くの方で何かが動く気配がした。
今日は任務があるからこっちに構ってる暇はないはず。
ただでさえ俺らの朝が遅かったんだ。
リーダーに顔見せたらすぐにペッシと一緒に行ってしまう。
でも、ナマエの気に入りようを見たら俺の部屋に寄らないとは限らない。
ナマエには口をゆすいでくるよう促しつつ、自分は服を身に着ける。
さっさと行為の後を消したくて窓を開けた。
自分だけ一方的に気持ちよくなっておいて言うべきことじゃないけど、ナマエは不満そうな様子は一切見受けられない。
続きして、とか言わない。
「メローネさん、水回りはもう少し綺麗にした方がいいよ」
洗面所から戻ってきたナマエ。
「ん。面倒でね。考えておくよ」
「良ければ掃除しようか?」
「そこまではさせられないよ」
「そっか」
「うん。そういえば今日予定あるの?」
「少し買い物に行きたいなって」
「昨日じゃお店回りきれなかった?」
「細々したものを…化粧品とかです」
「あーなるほどね」
彼女にはまだ話してないようだが、ナマエ一人での外出は許可されていない。
必ずチームの誰かが一緒にいるよう、チームのメンバーはみんな言われてる。
「荷物かさばりそうなら俺も行こうか」
「良いんですか?」
「一人で出かけさせられないし」
やったーと喜ぶナマエは先ほどの淫靡な空気を一切感じさせない。
俺はまだ若干だるさをひきずっているのに対照的だ。
「それじゃちょっと用意してくるね」
「終わったらまたおいで」
「はーい」
ぱたんと小さな音を立ててドアが閉められる。
(「あ、ペッシくんおはよう。」
(「遅くない?もう昼になるよ」
(「ええーそうかな。お二人はこれから仕事?」
(「そうだ。…メローネの野郎に変なことされてねーだろうな」
(「何もされてませんよ?」
(「……なら良い。おいペッシ行くぞ」
(「二人ともいってらっしゃーい」
扉の前にはプロシュートとペッシがいたらしい。
チームの中だと俺のスタンドはすぐに使えないため、仕事の頻度は俺が一番低い。
オツトメゴクローサンです。
口には出さないけど皆にはそう思っている。
それにしても変なことは何もされてない、ね。
よく言うよ。
バカそうな見た目してそういうとこはしたたかなんだ。
あ、でも。
飼われてたくらいだからさっきの行為は当たり前にカテゴライズされてるかもしれない。
どっちにしたって今日のことは二人の秘密になる。
バレなければいいんだ。
面白くなるにはバレなきゃだめだけど、まだその時じゃない。
あー。
考えても仕方がない。
俺も着替えて用意しなきゃ。
少しでもドキドキしてしまった自分に嫌気がさす。
あんなの全然タイプじゃない。
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