日本の話で盛り上がったところで、このまま引き止めておくのも申し訳ないからってことで花京院と別れた。
部屋に戻るとテレンスさんによって紅茶と何種類かのお菓子が用意されていた。


「あ!これ好きなのだ」


ナマエが受けるDIOの館での待遇はとても良いもので、不自由なんてほとんどないし、むしろ今までより生活の質が良くなったくらいだ。
毎食テレンスさんのつくる美味しいごはんを食べて、程よい時間にお茶を飲んで、広いお風呂に入って、寝る前はDIOとちょっと話をしてから眠りにつく。
DIOと話すのは私のいたころの日本のことだ。
スマートフォンの話が特に気に入ったようで、自分が持っていなかったが知っていることを色々教えた。
車も今より少ない燃料で走れるようになるんだよっと言ったら面白そうだと笑った。
戦いがなければ彼はきっと何年も生き続けるんだろう。
私の生きていた時代まで、それからその未来まで。
ずっとこんな生活が続けばいいのに…
でも花京院が日本に戻るということはあと三か月くらいで彼は承太郎と出会うはずだ。
それからは一気に物語が加速する。
この生活も終わるし、それに文句なんて何もない。
早くスタンドを強くしなきゃ。


「いつもありがとうございます、テレンスさん」


「いえいえ。これも私の仕事ですから」


「このお菓子、よく出る気がするんですけど有名なお菓子ですか?」


綺麗に並べられたお菓子の中から一つを指さす。
初めて食べたときからとても気に入って、それから毎日でてくる。


「特別有名というわけではないですよ。ナマエ様はこれがお好きでしょう」


「うん。好き」


一口食べれば程よい甘味が広がってとても落ち着く。
淹れられた紅茶は今まで飲んでもティーパックだった私の鈍感な舌でも上等なものだとわかる。
葉っぱだけじゃなくて、テレンスさんの淹れ方も上手なんだろうな。


「なんか…ここに来てからすごい良い生活させてもらってるって毎日かんじるよ」


「客人というのもありますね。それにお気づきでないかもしれませんが、DIO様はあなたを気に入っています」


「えー…気に入るって言ってもペット感覚だよ」


「好奇心もあるんでしょうね。でも気に入っていることには変わりありませんよ」


DIOの気に入るは面白いペット扱いと良い待遇でなんとなくわかっていた。
でも改めて言われるとくすぐったい。




お菓子と紅茶をお腹におさめた後、館の書庫で少し本を読んでからお風呂に入る。
ナマエが風呂上りに本の続きを読もうと廊下を歩いているとフラフラ歩く一人の女性と出会った。
下を向いて何かぶつぶつ言っている。


「大丈夫ですか!?」


普通じゃない様子が心配で声をかけると睨まれた。
憎しみが込められたすごい表情だ。
館内で初日以来出会った女性は漫画にでてきたスタンド使いのみだったので、それ以外の人と出会ってびっくりする。
私が何かしてしまったのかも、と一瞬不安になった。
しかし、彼女とは初対面なのでそんなはずはない。
機嫌の悪い時に話しかけてしまっただけだ。
タイミングが悪かったな。
向こうも余計に気を悪くしてしまったんじゃないか。
不安になりながら、笑ったらすごい美人なんだろうな。と変に余裕がでてきた。
ここはおとなしく去っていくのが正解だろう。


「体調が悪いのかと思って声かけちゃった…ごめんなさい。私もう向こういきますね」


そう言っておとなしく彼女の横を通り過ぎようとする。

ガッ


「え!?」


それを阻む様に腕を掴まれた。
さっき言ったように私はこの人と初対面だ。
それなのに腕をギリギリと力をこめて掴む彼女の手は恐怖の他にない。
話しかけてしまったのがそんなにまずかったかな…


「あなたが……り…………」


「な、な、なんですか!?」


振りほどこうと腕を振っても手が離れることはない。
しかもまたブツブツ言い始めた。


「あなたがDIO様のお気に入りね!!!!!!」


先ほどよりも鬼に近づいたようなとんでもない形相で叫んできた。
鼓膜がビリビリしそうなほどの大声だ。
その一言で彼女はDIOの相手をする人たちの一人だろう、と察しがついた。
そして変な勘違いと嫉妬をされてしまったと理解した。


「殺してやる!!こんなブッ細工で貧相な薄い体DIO様にふさわしくない!!!どんな手でだまくらかしたのかしらねぇええええ!!!???殺す!殺す殺す殺す殺す!!!!!殺してやる!!!!!!!!!」


「え?」


殺意を向けられるなんて初めてで、彼女の迫力にもひるんでまったく動けなかった。
彼女が叫びおわったと同時にお腹にナイフが突き立てられる。


「ぐッ…あ……」


傷口が熱くなったと思ったら一拍おいてすさまじい痛みが襲ってきた。
女性がナイフをひきぬくと同時に信じられない量の血が出ていく。
こんな出血はナマエには初めてだった。
ナマエが立っていられなくなり膝から崩れ落ちると、女性はナマエの腕をつかんでいた手をはなす。
今度は両手でナイフを構えた。
興奮で息を荒げている女性を見上げながら死んじゃうのかなととぼんやり思う。


「これで、これで、DIO様は私を見てくれるのよ!!!!!やったわ…やってやる!!!」


先ほどの痛みは嘘のように今は感じなくなってきた。
動かなきゃもう一回刺されちゃうんだ。
動きたくても体を動かせない状況に絶望を覚えてぎゅっと目を瞑る。


「これでおしまいよぉおおぉぉおおお!!死んじ」



ガオンッ

突然先ほどまできこえていた荒い息遣いも叫び声もなくなる。
薄く目を開けるとヴァニラさんが佇んでいた。
先ほどのガオンって音はやっぱりヴァニラさんだったんだ。


「遅れてすまない。意識はあるな」


「……ん………」


体を起こしてもらって、傷にのばされた手がひっこむ。
テレンスさんがやってきて私の様子を見て黙ってしまう。
もう手遅れなの?
手当のしようがないの?死んじゃうの?
不安がつのっていく中でポツリとテレンスさんが呟く。


「ナマエ様、スタンドをおさめていただけますか?」


「…え?………」


傷口を見れば小さくまるまったナマエのスタンド、セトル・ダンが傷口をころころ転がっていた。


「な……にこれ……?」


今まで揺らめくスタンドの姿しか見なかったため疑問が隠せない。
普段の特訓でもスタンドの出現を操れないのに、こんな意識がおぼろげな中できるはずがない。


「…だめ……意識…おとしてくだ………さい」


「承知しました」


テレンスは最小限のダメージでナマエの意識をおとさせると、すぐにスタンドは姿を消した。
それを確認して、まず場所を変えようということでヴァニラがそのままナマエを抱え上げて急いで別室に向かった。


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