裏切り者の末路
いつまで待っても、ナマエを貫く銃弾は放たれなかった。
「ふざけるな!」
シャンクスが怒鳴った。ベックマンも怖い顔をしている。ナマエは笑いながら泣きそうになった。でも泣いたら、この人たちは優しいから、殺した後に思い出して悲しむかもしれない。そう思って、わざと憎たらしい表情を作って見せた。
「あれ、子どもの方がよかった?ごめんね、今まで騙してて。自分で言うのも何だけど、わたし、聞き分けよくてかわいい子どもだったでしょ?いいのよ気に病まなくて、全部演技だったんだから」
「うるせェ!」
もう一度シャンクスが怒鳴った。その表情を見ていたら、ナマエは何も言えなくなった。…殺気じゃないのだ。シャンクスが浮かべているのは。怒り。何で信じてくれないんだ、頼ってくれないんだ、そう思っているのが嫌でも伝わってくるような。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねェ、お前はおれたちの仲間だ!黙っておれたちと一緒にいろ!」
ずるい。ずるい。シャンクスが何を考えているのか、何を思っているのか、こんなにも伝わってしまう。分かってしまう。顔を歪めたナマエの頭に、ぽん、と手が置かれた。見なくても分かる、誰の手なのか。
「……と、いうわけだ。諦めておれたちと生きるんだな。お頭がこうなったらきかねぇのは分かるだろう」
誰の声なのか見なくても分かってしまって、ナマエの目からは涙が溢れた。
「…死なれちゃ困る。お前のきょうだいの居場所を聞き出すまでな」
「ま、さか…」
顔を上げると、ニィっと笑みを浮かべたベックマンと目が合った。ばっと首をひねってシャンクスの方を見ると、彼も同じような表情をしている。
「おう。行ってやろうじゃねぇか。お前のきょうだいたちを助けに。もうお前が二度とこんなばかなことできないようにな。……それに、分からせてやるさ。誰に喧嘩を売ったのかな」
周りを見渡すと、全員が同じような表情を浮かべていた。好戦的な、怒りと高揚を混ぜたような、ナマエにとってはまぶしいくらいに頼もしい顔。
さっきナマエに怒っていた若いクルーすら、ナマエが一人で死のうとしていたと知って、顔色を変えていた。彼らの顔にも怒りが浮かんでいる。ナマエに対してではない。そんな状況へ追い込んだ海軍へ。
「さぁ行くぞおめぇら!異論がある奴は!」
口々に否定が返ってくる。さっきまで不満そうな顔をしていたクルーも含めて、一人残らず。
ナマエはとうとう耐えきれず、大声をあげて、まるっきり幼子みたいに、泣いた。
「お前な、聞き分けよくてかわいい子どもだった、ってのはいくら何でも無理があるぞ。どんだけ手を焼いたと思ってる。」
作戦を立てるため船内に向かう途中、ベックマンがからかうように言った言葉に、ナマエは笑いながらまた泣いてしまったのだった。