ジンと子ども

 入り口で、まとわりつく商売女を全て振り払ったジンに、ベルモットはからかうような口調で言った。

「あら、稀に見る美女たちだったのに」
「…うるせぇ」
「私のことも無碍に払うくらいだものね」
「……………今はドライマティーニって気分じゃねぇ。甘ったるいベレッタなら飲んでやらなくもねぇがな」

 に、と歪んだ男の唇に、ベルモットははっとベレッタを軽く背に庇った。焦りを隠すように婉然と笑い、

「あら、お子様には食指が働かないんじゃなかったの?」
「フン…冗談のつもりだったが、テメェのそんな面が拝めるとはな。気が変わった、こちらへ来い、ベレッタ」

 場の空気が変わったことにベレッタは気付いて、ジンとベルモットの顔を交互に見た。どうすればいい?とベルモットを縋るように見つめるが、彼女も焦った顔をしている。予想外だったのだろう。

「あんまりその子をいじめないでやってほしいんだけど?」
「お前を見逃してやっているのはボスのお気に入りだからだ。こいつがお前の気に入りだろうが何だろうが俺より格下……お前の指図を受ける理由はねぇよ」

 コードネームを持つメンバーは基本的に同格だ。だが、ベレッタというのは正式なコードネームではなくいわば愛称のようなもの。純粋な酒の名前ではなくカクテルの名前だ。コードネームをもつベルモットより格下で、ベルモットと同格のジンよりも当然格下のメンバーでしかない。
 それでも、ベルモットはどうにかジンの気を変えようとした。

「あら…つれないわね。私が幾ら誘っても肯かないくせに…ねえ、そんな小娘より私と」
「うるせぇ」

 しかしベルモットが彼女を庇ってどうにか自分が誘惑しようとすり寄っても、ジンはにべもない。こうなれば何を言っても無駄だろう。ベルモットは諦めて身を引き、ベレッタの耳元に「うまくやりなさい」と囁いた。



 適当なホテルの一室で、ベレッタは既に泣きそうになっていた。ちなみにラブホテルではない。
 ジンなど一緒にいるだけでも怖いのに、ベルモットやバーボンとやったような行為をするなんて。

「突っ立ってねぇでこっちへ来い」

 ばさりと黒いコートを脱いだジンが、相も変わらず冷酷な声で呼んだ。心底怖いが、事前にベルモットから逆らうなと強く言い含められている。とりあえず言う通りにしなさい、と。
 無言で傍へ寄ったベレッタをジンは情緒の欠片もない仕草でベッドへ縫い付けた。息が詰まる。

「……シャ、シャワーは?」
「うるせぇ」

 勇気を振り絞った言葉も一蹴される。ギロリと睨み付けられて、ベレッタは逆らう気力を一切なくし、身を任せた。その様子にジンは少しだけ気をよくする。ベルモットの金魚の糞だから奴と同じような言動をするかと思ったが、予想に反してベレッタは酷く従順だ。ベルモットのようにいちいち女性の扱いがどうこうとも言い出さない。これがベルモットなら嫌味のひとつも言われているところだろう。
 まるで初心な十代の小娘だ。

「…フン」

 乱暴にベレッタの体をひっくり返し、背中のファスナーを乱暴に下す。細い肩が露わになった。なめらかな肌には傷ひとつない。よほどベルモットに大事にされているらしい。ジンは新雪を汚すように、白くなめらかな肩に噛みついた。逃げようとするベレッタを抑え込み、いっそう力を込める。

「いっ……!…っ」

 叫ぼうとしたベレッタの喉に銃口が突き付けられた。叫びは飲み込まれ、顔面が蒼白になる。

「喚くな。気が散る」

 こくこくと肯く。ベルモットに言われていた通り。動かず、叫ばず、ただ身を任せて言われた通りにすればいい。ベレッタはぎゅっと目をつぶった。

「…目はつぶるな。俺はテメェの顔が恐怖で歪む様を見てぇんだよ…」
「………っ」

 恐怖が体中を這いあがった。冷徹なジンの視線はそれだけでベレッタをすくみ上らせる。開いた目の端から涙が滲むのが分かった。

「おい、今からそれか…?身が持たねぇぜ?」

 くつくつと男の喉から低い笑い声が漏れ出た。

 何て愉快なことだろう!ジンは残忍な笑みを浮かべた。普段あのいけ好かない女に守られ、かわいがられている女をこうも好きにできるとは。最初はただベルモットへの意趣返しのつもりでしかなかったが、あまりにもいい反応をするベレッタを怯えさせることそれ自体に愉しみを見出しそうだった。

「安心しろ…たっぷり可愛がってやる」

 獰猛な笑みは明らかに捕食者のそれで、ベレッタはオオカミに捕えられた小動物にでもなったような心地で、ただ男の体の下で震えていた。



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