ジョディとシュウの妹
通りに面した席に座っていたのが悪かったのかもしれない。
喫茶店で、コーヒーを飲み終わって席を立とうとしたナマエは、腕をがしりと掴まれた。
「シュウ…!」
「……ジョディ、」
彼女はすぐに間違いに気づいたようだった。
「あなた…ナマエね?ねえ、今どうしてるの?シュウは、」
「……俺が兄貴を嫌ってることは知ってるだろ、ジョディ。連絡なんか一度も取ってねぇよ」
振り払ってもよかったが。そうできなかったのは、彼女を愛した過去があるからか。…思いを伝えもしなかったし、伝えたところで結果など分かり切っていたのだが。
「……この前ビルで顔に火傷を負って喋れなくなってる彼を見かけたわ。あれは本当に彼だったの?そんな大怪我をしたなら家族に連絡が行くはずでしょ?」
「ジョディ。」
彼女が、今もまだあの男をこんなにも想っているのだと、こんな形で知るのは嫌だった。
「知りたいなら教えてやるよ。……ホテルに着いてくる勇気があるならな」
「ホテルって……あなた今どこに住んで」
「意味が分からないか?……噂くらい聞いたことあるだろ、シュウそっくりの男女みたいな妹は、女を食うのが趣味だって。」
「く、食うって、あなた……」
「それで?ついてくるか?」
つかまれた腕を逆にぐっと掴み返すと、ジョディは少し怯んだようだったが、ナマエの目を睨み返してきた。それでこそ、だ。
*
「シャワー先に浴びていいぜ」
「…私は話をしに来たのよ、ナマエ」
ホテルの一室。どさりと荷物を置いて上着を脱いだナマエの横で、ジョディは頑なにそう言って腕を組んだ。
「ふぅん。まぁ別に俺はいいけどな、シャワー浴びてなくても」
「ちょっと、ナマエ、」
「往生際が悪いな…ジョディ」
癪だったが、わざと兄に似せた声色で名を呼ぶと、ジョディは視線を逸らしながら微かに頬を染めた。
身長差がこんなとき恨めしい。胸をなくして体を鍛えて低い声を出しても、こんなに背が低いとキスだって好きにできやしない。
「お前だってあいつが恋しいんだろ?」
とん、と胸を突いてジョディをベッドに座らせてから、ナマエはぎしりと膝を乗り上げた。こうでもしないと見下ろすことができないので。
「同じ顔だぜ。…シュウって呼んでも構わない。」
懇願するような声音になったのは失敗だった。キスをしようとした直前で突き飛ばされてしまった。
「冗談はやめて!」
「…冗談じゃないならいいのか?」
「何言って…」
ジョディの顔に本気で怯えるような色が見えた。…そんな顔をされたら手を出せない。ナマエはフー、と息を吐いた。
「…………安心しろ、冗談だ。兄貴の情報は俺も追ってるところだ。飯にでも付き合ってくれるんなら、情報が手に入り次第教えてやる」
そう言って紙切れにさらさらと文字を書き、ジョディのポケットにねじ込む。つくづく自分も彼女に甘い、と自嘲しながら。
ジョディはほっとしたような顔でそれを見ていた。
「食事くらいいつでも付き合うわ。それよりあなた今どこで何をしてるの?ご飯はちゃんと食べてるんでしょうね?目の下のクマ酷いわよ」
ああ、思ったより自分も馬鹿だったらしい、
緊張が解けた途端に口うるさくあれこれ言ってくるジョディを見ながら、ナマエは小さく舌打ちをした。