並んで歩く

「ありがとう。助けてくれて」

 約束なんてしていない。でまかせだ。ブラックへの効果は覿面だったようだが。

「……別に。自寮のものが敵対する寮の人間に付きまとわれているのが気に食わなかっただけだ」

「え、どうして分かったの?私があいつに付きまとわれてるって」

 知り合ったのは最近で、それまで認識もされていなかったのに、とナマエは目を丸くした。

「見ていれば分かる。非常に不本意だがあいつの卑怯さはぼくもよく知っているしな」

「……あー」

 ナマエは微妙な顔をした。スネイプと悪戯仕掛人とのいざこざは同学年の間では有名だ。もしかしたらナマエも噂を聞いたことがあるのかもしれない、と思うと、スネイプの眉間には皺が寄った。

「それより、もしかして図書館へ行くところだった?」

「……ああ」

「私もなの。一緒に行ってもいい?あいつらにまた変な言いがかりつけられてもやだし」

 正直、他人と、しかも異性の同級生と関わるなど心底面倒ではあったが。いつまでも孤立しているのも得策ではないかと、スネイプはその申し出を承諾した。





 図書室へ向かう道すがらを、ふたり並んで歩く。大抵は一人か、あるいはスリザリンの数人と固まってしか歩いたことのない廊下をこうして二人だけで歩くのは奇妙な気がした。

「ふぅん…薬学が得意なんだ」

「闇の魔術……に対する防衛術も気に入っているが」

「防衛術は私も好きだよ。でも薬学は苦手」

「何が得意なんだ?」

「変身術とか、呪文学とか。魔法史は教授の声が苦手だったけど、今はかなりお気に入りの授業のひとつ」

 ふぅん、と聞き流しかけて、スネイプはひとつ疑問を持った。

「“だった”?“今は”?あの教授の声はちっとも変わっていないじゃないか」

「あ……」

 ナマエはあからさまにしまった、という顔をした。泣いているところを発見した時もそうだったが、この少女は迂闊な部分が見受けられる。口調を素に戻したり、こうしてあからさまな表情を見せたり。本当にそれでもスリザリンか、と思ったが、そこは言わないでやった。

「……あー。あー、ミスタースネイプ、君は、規則にとやかく言う方かい?」

 バツの悪そうな顔でそう切り出したナマエに、スネイプは思わず眉間に皺を寄せた。



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