Good bye, love

その寂れたカフェのオープンテラスの席からは、彼女の姿がよく見えた。

「アイリーン、」

好き、とか、愛してる、とは違ったような気もする。
彼女に向けていた感情の名称も、彼女と私の関係性の名称も、今更どうでもいいことだった。名前なんかどうでもいい、ただ。
一緒に幸せになりたかった。

「アイリーンの、ばか。気づきもしないなんて」

視線の先には、彼女の隣を無表情に歩いている男、トビアス・スネイプ。マグルの彼は、粗野で身勝手。アイリーンに歩調を合わせる優しさも無いらしい。

彼なんかのどこが良いのか全く分からないけれど、私だってよくよく考えてみれば何でアイリーンなんて根暗で気弱で矜持ばっかり高い面倒臭い女の子を好きなのかも分からない。趣味の悪さはお互い様なのだろう。

「幸せになってよ、ね」

言うまでもなく、彼女の変化の乏しい顔は、微かに幸せそうな笑みを浮かべていた。苦労するだろうな、と、確信にも似た予感はその時既にあったのだ。でも、大抵不機嫌そうな乏しい表情しかその顔に浮かべていなかった彼女が、微かにでも笑っているというその事実だけで私は全てを諦めた。

知っているから。どんなに最低な相手でも、その人でなければ駄目なのだということを。
誰に何と言われようと、他ならぬその人と共にありたいと願ってしまうことを。

容姿も性格も性癖も嗜好も生い立ちも種族も、時には性別すらも関係なく、唐突に恋に落ちてしまうのだから。
私自身がそうなのだから。

「…ばいばい、アイリーン。大好きだよ」

もう二度とここには来ない。そう心に決めて、ナマエはひっそりと寂れたカフェのオープンテラスの席を後にした。

Goodbye, love
(さようなら、愛しいひと)
(泣きそうだから、会わずに去るよ)



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