気を許した証

「…寝ちゃいました?」
「ああ。昨日も一昨日も寝られていないみたいだったからな」
「………やっぱり今日はモーテルに入りましょうか」
「何ならホテルのスイートでも構わないんだがな」
「馬鹿言わないでください。あんまり目立っちゃいけないんですから」

 レイは後部座席から顔を出して、寝てしまった助手席の少女を眺めた。シュウも少し目線を横に向け、ハンドルから手を離して助手席のシートを倒してやった。
 どこまでも続く、地平線を二つに割く長い長い直線の道路で、少しくらい目を離したって大したことにはならない。この車にはクルーズコントロールがついているし、前方にも後方にも見渡す限り車はない。一時間ほど前にぼろいジープに乗った四人ほどの学生グループとすれ違ったきりだ。

「やっと警戒が取れましたね」

 ナマエはすやすやと無防備な寝顔を晒している。幼子のような呼吸の調子を聞きながら、レイは頬を緩めた。何とも微笑ましい光景だ。

「会ったばかりの男二人を信用されたらむしろ正気を疑う。俺も君もそれなりに体格があるし……隠してはあるが銃だって持ってる。こんな状況でレイ○されても逃げられない」
「ちょ、言い方」
「正直この程度で信用されても困るくらいだ。違うか?」
「……そうですね。でも…もしかしたら、」

 不自然に言葉が途切れる。シュウはちらりとレイの顔を盗み見た。レイがナマエを眺める表情は複雑だった。愛しいものを見るような、この世で最大の罪を犯したような。

「疲れてませんか?」

 レイは続きを言わず、シュウの方に目線を向けた。ちょうどレイを見ていたシュウと一瞬視線が交わる。シュウは言いかけた言葉を飲み込み、進行方向に目を向けた。

「問題ない。オートクルーズ中だ」
「アダプティブ?」
「Nope, ブレーキまでは制御できない。スロットルだけだ」

 オートクルーズというのは、アクセルを踏み続けなくても一定の速度で走行してくれるという何とも便利な機能である。アダプティブなら前の車との距離まで保ってくれるが、今ここに他の車はないのでどうせ使えない。とはいえオートクルーズ機能だけでも長距離ドライブではあるとないとじゃだいぶ変わる。車がクラシックなのは見た目だけで十分だ。エアコンが機能するならなおよかったが。

「スカイラインはどうします?」
「寝かせておこう。テキサスなら起こすほどの景色じゃない」
「まあ、そうですね。どうせひたすら地平線が続くだけですし。…じゃあ、適当にどこか寄りましょう。この辺りだと、確か何かで有名な洞窟があったはずです」
「了解」

 シュウは手短に答えて、進行方向にまっすぐ伸びる道へ視線を凝らした。



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