コナンと赤井さんの妹

 杯戸町の一角で見かけた人影に、コナンは自ら近寄った。一度だけ赤井と一緒に居た時に会ったことがある。あの時は銃を向けられたが(赤井が)。

「ねえ、お姉さん」
「…あ?」
「確か、赤井さんの妹さん。だよね?」

 振り向いた顔はお世辞にも人相がいいとは言えなかった。というより、妹だと聞いていなかったら背の低いチンピラ男にしか見えなかったかもしれない。彼女を見るとコナンはいつも、安室と初めて出会った事件を思い出す。一卵性の双子と知らず婚約してしまった挙句自殺をしてしまった女性を。…彼女もターナー症候群で背が低かった。

 コナンは見下ろしたナマエの顔は不機嫌そのものだった。

「……どいつもこいつも、俺の顔を見りゃ一言目にはそれか。俺も赤井なんだが」
「あ、ごめんなさい…でもナマエさん、どうしてここへ?」

 コナンが慌てて謝り、呼び方を彼女自身の名前に変えると、表情は少し和らいだ。

「ガキにそんな顔させに来たわけじゃない。バ―安室透って男に渡すものがあってな」

 ポン、と頭に置かれた手は意外にも優しかった。

「安室さんならボク知ってるよ。ボクんちの下の階の喫茶店で働いてるんだ。渡しておこうか?」
「いや…」

 無邪気な子どもを装ったコナンに、ナマエは微妙な顔をした。そういえば彼女は、赤井とコナンの関係をどこまで知っているのだろう。この間の様子では、密に連絡を取り合っているようには思えなかった。

「ごめんなさい、お仕事のお話なら、ボクが口出すことじゃないよね」
「………物分かりが良すぎるな。それに、あいつとどういう関係なんだ?」

 あ、やっぱり知らないんだ、とコナンは思った。

「ちょっとお耳貸して?」
「はぁ?」

 怪訝な顔をする彼女の傍で背伸びをすると、彼女はそう高くない背をかがめてコナンのためにしゃがんでくれた。

「ボクの親戚のお兄ちゃんちに、昴さんが住んでるんだ。」

 それだけ言えば、事情は少しは伝わるだろう。コナンはそう思って口を離した。
 彼女の反応は顕著だった。目を丸くしたかと思えば、額に手を当てて天を仰いだ。あのクソ野郎、と漏れたのは聞こえなかったふりをすることにする。

「お前みたいな小さいガキまで巻き込んでやがるのか。まだ遅くはない、手を引いた方がいい。あの男に関わるとロクなことがない。困っているんなら保護してやる」
「あ、あの、いや、大丈夫だよ。ボクちゃんと自分から関わってるから。」
「お前みたいなガキが一体どんな事情で組織と――――いや、まあいい。俺の知ったことじゃないな。あの男の味方なら俺の敵だ」

 言葉の端々に赤井への対抗心というか嫌悪感のようなものが垣間見えて、コナンは思わず顔を引きつらせた。

「えっと…でも、お姉さんってさ、――――悪い人の敵、だよね?」

 その言葉に、ナマエはフン、と目を細めて笑った。……今の表情、赤井さんとそっくりだった、と言ったら怒るだろうか。

「お前、俺を無条件に信用しない方がいい。俺はあの男も安室透も心底嫌いだ。あいつらに一泡吹かせるためなら組織についてもいいと思うくらいにはな」

 赤井への対抗心を隠しもしない。子どもみたいだな、と思ったが、よくよく考えてみれば赤井さんも時々大人げないから、やっぱり似ているのかもしれない。

「…うん、でも、ボクは信じるよ。赤井さんがお姉さんを信じてるから」
「…いつか裏切られて泣きを見ても知らんぞ」
「大丈夫。ボク、赤井さんのことも、安室さんのことも、お姉さんのことも信じてるから」

 コナンがにこりと笑って見せると、ナマエはうっと言葉を詰まらせたようだった。子どもに慣れていないのかもしれない。彼女はひとつ大きくため息を吐くと、「好きにしろ」と吐き捨て、どこかへふらりと消えてしまった。



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