説明的な話

 赤井ナマエは、赤井の一卵性双生児の妹である。姉であるか妹であるかの議論はこの際おいておく。異性一卵性双生児に多いターナー症候群で背は低く、そのせいか、物心つく頃には同い年であるにも関わらず、秀一が兄でナマエは守られるべき妹、という構図ができあがっていた。顔は嫌になるほどそっくりだった。
秀一のことは嫌いだった。自分と同じ顔をしているのに、背も高く、鍛えれば筋肉もすぐにつき、重い荷物を持つのもいつも彼のほう。背が低く、性別が女であるナマエは逆立ちをしたって秀一にはかなわない。だからナマエは秀一が嫌いだった。
 自分と同じ顔、同じ年の兄なのに、なぜか自分だけは背も伸びず、日に日に力の差は広がっていくばかり。膨らむ乳房に嫌悪し恐怖しても、彼と同じになることはできない。
 何度か家出を繰り返していたナマエは、ハイスクールを卒業する頃、もう戻らないと決めて、完全に家を離れた。
 大学へ進学した兄と、もう二度と顔を合わせなくて済むように。
 


 兄と一緒が嫌で高校も職場も違うところにしたのに、好きになる人がいつも一緒だったのは、もう、神様の嫌がらせだったのかもしれない。あるいは、片割れが好きになったから自分も好きになったのか。
 高校の時はナマエの同級生を二人とも好きになり、社会人になってからは秀一の職場の同僚を二人とも好きになった。

 潜入捜査のために赤井秀一がジョディを振った時には、本気で半殺しにしようかと思ったが、実力差の問題でそれはかなわなかった。



「久しぶりだな」

 その台詞を言ったのが真澄だったなら、ナマエも少しは愛想よく返事をしたかもしれない。だが非常に残念なことにそれを言ったのは赤井秀一であったので、ナマエは一切の表情筋を動かすことなく、また言葉を発することもなく、踵を返した。

「久しぶりに会った兄に、随分な態度じゃないか」

 苛立ちが募って、感情のままに口を開きそうになるが、そんなことをしてはこのいけすかない男の思うままだ。

 大体、二人は双子だ。どちらが兄だとか妹だとかは意味をなさないだろうが、とナマエは内心で苦く吐き捨てた。義務教育が始まるまで、自分よりずいぶん大きな体をしている秀一を二、三歳上の兄だと思っていた過去があるので、あながち否定もできないのだが。

「………ジョディが、三人で食事でもしないかと言ってきたんだが」

 飽くまでも無視を貫き、すたすたと歩いていたナマエは、ぴたりと立ち止まった。

「お前に嫌われたのかと、随分気にしていたぞ」

 振り向いて、兄を睨み付ける。本当に、癇に障る男だ。

「俺が彼女と付き合ったのが、そんなにショックだったのか?」

 それが、我慢の限界だった。ナマエは思い切り振りかぶって、兄の頬めがけて拳を繰り出した。

 軽々と避けられたことがまた、苛立ちを煽る。二、三度再び手や足を繰り出すが、全てかわされて終わった。秀一の片手はポケットに入ったままで、反撃のそぶりもない。せめて反撃してくるような兄ならばまだ少しは許せもしただろうに。

「………平和的に会話できた試しがないんだ、近づかない方がお互いの為だとは思わないのか?」

 絞り出すようにナマエが言うと、秀一はちょっと肩をすくめた。

「俺の方は別にお前と戦う意思はないし、近づくことが俺の為にならないとは思わない」
「………死ね」
「いつかはな」
「…………………………ジョディには、忙しいだけだと伝えろ。お前と三人で食事をする気はない」

 ナマエはそれ以上の会話を諦めて、再び踵を返した。秀一がついてこようとすれば女子トイレを通り抜けてでもかわしながら。



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