主人公たちとの出会い
「山田ナマエ?」
「うん!中学生のお姉さんなんだけど、歩美が迷子になったとき助けてくれた人なの!」
「へぇー。その人、一人暮らしなの?」
「ううん。すっごい年取ったおじいさんとおばあさんと一緒に暮らしてるみたいなんだけど…」
まあ、だよな、とコナンはうなずいた。中学生が一人暮らしなんて。…そういう自分は高校生にして一人暮らしをしていたが。
「それで、その人がどうかしたの?」
「最近、なんだか様子がおかしいの」
「最近って?」
「んー…中学に上がった頃から何となくおかしかったんだけど、そうだなぁ…ちょうどコナン君が転校してきたあたりから、学校もお休みがちになっちゃってるらしいの」
少年探偵団の一員として歩美の話を聞いていただけだったコナンは、少し顔を険しくした。
オレが来てから、だって?まさか……いや、中学生なら関係あるはずがない。だが。
「歩美ちゃん、その人のこと昔から知ってるの?それとも最近引っ越してきたとか?」
「え?えっと、最近ってわけじゃないけど、歩美が生まれたくらいの頃に引っ越してきて…その前は大きなお屋敷にいたんだって。でもお屋敷が火事でなくなっちゃって、ナマエお姉ちゃんだけ助かったんだって」
コナンはさらに顔を険しくした。火事で家ごと消すというのは組織の奴らが証拠隠滅をするときによく使う手だ。もしかして何か組織と関わりがあるんじゃ
―――
「…って、んなわけねぇか」
「え?」
「あー、今度行ってみようよ。そのナマエ姉ちゃんって人の家にさ」
「うん!約束だよ!」
歩美はぱぁっと顔を明るくした。コナンが調べてくれるなら安心だ、と。
*
「えー、ナマエってやつの家に行くのか?」
「ボクたちもですかぁ?」
放課後。コナンと歩美がナマエの家に行くことを告げると、いつもはどこにでも喜んでついてくる元太と光彦が渋る様子を見せた。
「何かあったのか?珍しいじゃねーか、オメーらがそんな風に言うの」
「うーん…前歩美ちゃんと一緒に遊びに行ったことがあるんですけど…ずーっと睨んできてましたし、お茶を飲んだらすぐ帰れって…」
「なー。ケーキうめーって言っただけなのに、もう終わりとか言って追い出してよー」
「違うよ!ナマエお姉ちゃんはいい人よ!ちょっと人見知りさんなだけなんだから!」
怒りだした歩美に、元太と光彦は冷や汗をかいて笑った。
「ま、まあ、歩美ちゃんとコナン君を二人切りにするわけにも行きませんし」
「またケーキ出してくれっかもしれねーしな」
と、結局四人でいくことになった。
山田、と表札のかかったその家は、工藤家と阿笠博士の家から通りを二つほど挟んだところにあった。コナンも小さい頃から何度か通ったことがあるし、ここに住んでいる老夫婦も顔は知っている。
「ここのことだったのか…」
ありふれた名字だから気づかなかった。中学生の娘を引きとったなんて話はきかなかったが。
(いや、去年までは小学生か。)
チャイムを押して待ちながらそんなことを考える。
「…あれぇ?いないのかな?」
「まだ学校ですかね?」
「でもよー、二階の窓、空いてるぜ?」
「…!」
コナンは走って裏口へ回った。鍵は締まっている。木に登ってベランダから中を覗くと、真っ暗な部屋に横たわる人影が見えた。
「おい!大丈夫か!?」
返事は無い。舌打ちをしてそのままベランダに飛び移り、中に入る。散らばった紙片、カセットテープ、ノート、…写真。その中心にうつ伏せに横たわっている、セーラー服姿の少女。
「おい!」
「………ん、…なに…?」
「……へ?」
少女が頭をあげた。その耳にイヤフォンが嵌っているのが見えた。コナンはどっと脱力した。
ぱちくりと瞬きをした目と、コナンの目が合う。
「………不法侵入?」
「あんたが紛らわしい感じで倒れてるからだろ!」
「え?ああ……」
ずず、と鼻をすする音が聞こえた。少女は薄暗い部屋の中で後ろを向いて何やら顔を拭っているようだった。…泣いていたのだろうか。コナンは言葉を詰まらせた。勝手に入ってきてしまったのはこっちの方なので。
と、散らばっている紙片が目についた。まるで荒らされた後のような。そう、これも紛らわしい要因のひとつだ。一枚ぺらりと手に取ると、ぱっと電気がついて、紙を抜き取られた。
「…いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず、勝手にひとの部屋の中のもの見ないの」
「ご、ごめんなさーい」
「……ベランダから来たの?怪我はしてない?靴のまんまで…危ないな」
「う、うん。怪我はないよ」
と、下から「コナンくーん!」「大丈夫ですかー?」「なんかあったのかー?」と声が聞こえて来たので、靴を脱ぎながら、「なんでもねー!」と返しておいた。
一瞬だけ見えた文章が頭に残った。
奈美恵ちゃんは料理が上手で、特にハムサンドが絶品だから、いつか食べさせてもらおう。このときシャアとなく気性の粗い猫は奈美恵ちゃんに警戒されちゃっているけど、きっと大丈夫。