オオカミ男の諦観

「な・ん・だ・よコレはぁああ!」

「「「どぁっはっはっは!!!」」」

羞恥に顔を赤らめたナマエの怒声に、仲間たちの盛大な笑い声が重なった。

アンチウルフ16号。ナマエとしては某魔法学校の物語に出てくる脱狼薬的なものを想像していたのだが―――ふさふさの大きな耳、同じくふさふさと揺れる大きな尻尾、しかも、まるで猫がマタタビを摂取した時のような(ナマエにその経験はないが)酩酊感。

「かわいいもんじゃねェか!」

「まるっきり犬っころだな!」

口々に笑い、更にはふさふさの耳を撫でてくる仲間たちに、ナマエはすっかり機嫌を損ねてしまった。ベックマンもその毛並みの良い尻尾に思わず手を伸ばし、「ほぉ」と感嘆の息を漏らした。

「飲むと中途半端な犬耳と犬の尾がついた酔っ払いになる―――ま、データ通りだな」

「先に言えよ!」

「言ったら飲んだか?」

「飲んだよ!どっか一人きりになれる場所に引きこもって鍵かけてからな!」

と、そこへ、機嫌はやや回復したらしいシャンクスが来た。ナマエの頭に手を伸ばし、ナマエが逃げようとするのも構わず押さえつけてそのふさふさの毛並みを堪能しながら、

「そんなのをおれが許すと思うか?それじゃぁ前と変わんねェだろ」

そう言ったのだった。

とにもかくにも、ナマエが少し(かなり)恥ずかしい思いをする以外、特に副作用も悪い影響も見当たらないので、赤髪海賊団は値の張るその薬を大量に購入することに決めたのだった。それですべて落ち着いたかと思えば。

「ああ、そういや、前の話の続きだ、ナマエ」

「……前の話って」

「惚れる云々」

「あーあーあー聞こえないー」

「忘れたんなら思い出させてやろうか?」

「……っ。く、薬で収まるんだし、あの話はなかったということで…」

「まあ待てよ。おれもつい最近自覚したんだ。自覚させた責任は取ってくれるだろ?」

「な、何の」

顔をひきつらせたナマエとは対照的に、シャンクスは吹っ切れたらしくここ最近いちばん晴れやかな笑顔でにかっと笑った。太陽のような笑顔。ナマエが惚れ込んでいる笑顔だ。―――人間的に。

「おれはどうやらお前に惚れられたいらしいんだ。つーわけで、おれに惚れろ、ナマエ」

「…はあぁ!?知るかよ!つーか口説き文句にしたって横暴すぎるだろ!」

ちなみにここには仲間のほぼ全員がそろっている。が、そんなことは忘れてしまった様子でナマエは必死になって叫んでいた。シャンクスの方はわざとである。

「いーやどうせお前は最後におれの言うことを聞くね」

「なっ、何を根拠に」

「お前ほどおれに甘い奴も見たことねぇからな!」

聞いていた周囲も思わず納得してしまったは如何なものだろう。だがまあ、結局外堀から埋められていくのはもはや決定事項と言ってよかった。

ナマエとしてはたまったものではないのに、ここ最近ずっと苛立っていたような表情ばかり見せていたシャンクスが機嫌よく笑っている、それだけで自分の機嫌も随分浮上している。そのことに気付いてしまって。

――――結局こいつの言うとおりになりそうな気がしてしまうのは、もう、仕方のないことなのかもしれない。



-END-



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