ジェイド国

 店で食事をとる間、人目が多いからと透明人間は透明なままでいた。サクラには姿が見えるのではぐれる心配もない。時々認識されずに人に踏まれそうになったり頭突きをされそうになるたび機敏な動きでかわす透明人間を、サクラだけが心配そうに見ていた。

 透明だから正直イカサマし放題なのだが、そんなことをしなくてもサクラは次々勝ち進み、見事に賭け金をちょうだいすることができたのだった。



 そして、馬上にて。

「馬には認識されるみたいだねーナマエちゃん」

「ついでにめちゃくちゃ嫌がられてるがな」

「ナマエさん…だ、大丈夫でしょうか」

 ずーんと落ち込む気配が何となくだが伝わってくる。その横でサクラが励ますように声をかけていた。

「ナマエさん、そんなに落ち込まないで」

「そうなんだー、動物にはいつも嫌われちゃうんだねー」

 話が通じているモコナとサクラだけが会話をするので、他三人には何が何やら分からない。モコナとサクラの返事から内容を推測するに、透明なのに若干の気配が動物には伝わるため、気づかれても怯えられるのが殆どらしい。犬には吠えられ、猫にはじっと見つめられ、ついでに人間には猫が何もないところを見詰めていると怯えられ、牛や豚や羊には怪訝そうに尻尾を振られ、そして馬には特に嫌がられるらしい。確かに何もないはずのところに重みが加わったら気味が悪い。人間でいう金縛りのような感覚なのだろう。

「やっぱ 難儀なやつだな」

「まーまー黒みーそんな酷いこと言わないであげて」

「だからてめぇはその呼び方をやめろ!」

 そんなにぎやかな会話を交わしながら馬を進めていくと、道はだんだん薄暗くなり、不気味さを増していった。             



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