/ / /


なんだかんだで、私が亮ちゃんに恋をしてから早2年と少し。気付けば、同じ場所で過ごせるのはあと、半年も無いのだと気付いた11月。

「てか、名前今日なんかいつもより可愛いない?」
先日の席替えで前の席になった忠義がマジマジと顔を覗いてきた。
「可愛いっていうか、なんか化粧が気合い入っとる」
椅子の背もたれに肘をついて顎を乗せた忠義は、首を傾げて不思議そうに見ていた。
「モテ男は、そんなとこに気付くからモテ男なんだね」
嫌味で言ったのに、本人は気にしてないのかしきりになんかあるん?と聞いてくる。

「…別にないけど」
「はい、嘘。まあ、どうせ亮ちゃん絡みやろ?なんなん、ついに告るん?」
人の意見を綺麗に否定して、にやりと笑って軽く巻いた前髪に指を伸ばしてくる。それに、反射的に目を閉じれば意外にも優しい指先が前髪に触れた。

「…明日、亮ちゃんの誕生日なの」
「え、そうやっけ?」
振り返り、黒板の日付を見たらしい忠義はあー、なんかの日やったなと呟く。
「文化の日。あんなに素敵な人を産んでくれたお母様にもお礼を言いたい」
「さすがにそれは、引く」

呆れたように言う忠義に言い返そうとして、先に口を開いた忠義は「で、今日告るん?」とまた聞いてきた。

「…こ、告白じゃないよ。明日は素晴らしい日だけど祝日で会えないから今日、おめでとうって直接言うの」
「え、それだけなん?」

その言葉に、一瞬浮かんだ言葉を飲み込む。

「それだけだよ。もういいでしょ。先生来たから前向きなって」
無理矢理話を終わらせて、忠義は不服そうにしながらもおとなしく前を向いた。
その背中を見て、息を吐き出す。

机の横にかけた鞄に目をやり、とりあえず立てた計画を頭の中で反芻した。



「りょ、錦戸先生!」
放課後、忠義に頑張れと軽い感じで応援され鞄を手に教室を飛び出した。
今日の亮ちゃんの予定では、6限目は空きなので教科室だと向かえばちょうど入り口の前に目当ての背中を見つけて呼び止めた。
「おー。どしたん?」

私を見た亮ちゃんは、不思議そうにこちらに足を向けた。
「あ、あの」
いつも通り、いつも通り、と頭で言い聞かせるのに全然言葉が出てこず視線を彷徨わせてしまう。
亮ちゃんは、そんな私を見て何かを感じ取ったのか、「…中入る?」と教科室の扉を指す。
確かにいつ誰がくるかもしれない廊下よりは、いいかもと首を縦に頷いた。

「どしたん?なんかあったん?」
心配気にこちらを見て私に座れ、とパイプ椅子を出してくれ自分の椅子に座った亮ちゃんを立ったまま見下ろす。
「苗字?」
「好きです!!」

亮ちゃんが私を呼ぶのと同時に、考えていた言葉じゃないものが口から飛び出て思考が一瞬停止した。
亮ちゃんも私の突然の言葉に目を見開いて見上げていた。

「え、っと…」
「ち、違うの!間違えた!いや、間違いでもないけど!あの、た、誕生日おめでとう!って言いたかったの!ごめんなさい!明日、休みだからこれ!」
パニクったまま、鞄から綺麗に包装してもらった箱を出して亮ちゃんに差し出す。
「生徒からは貰えないかもしれないけど、前にプリント持ってきてくれた時のお礼もしてなかったから!全然安もんだけど、あの、気に入らなかったら捨てて!ほんとに大した「苗字、待って。ストップ」

早口で捲し立てた私を亮ちゃんの声が制止させた。
「とりあえず、座れって。な?」
差し出した箱を受け取った亮ちゃんは、パイプ椅子を顎で指し私が座るの待った。


「…誕生日覚えとったん?」
「…当たり前じゃん」
当たり前なんや、と私の言葉に笑った亮ちゃんは膝に置いた包装された箱を見て「…開けてええ?」と聞いてきた。
受け取って貰えないことを考えていた私は、拍子抜けして無言で頷いた。
亮ちゃんが包装を外すのを見ながら、心臓が鳴り出す。無難なもの、と散々悩んで選んだから今更不安しかない。
箱を開けた亮ちゃんは、中身を見て優しく笑った。

「…ネクタイやん」
「そ、それなら気軽に使って貰えるかなって」

自分のつま先を見ながら、亮ちゃんに返す。毎日毎日見てきた亮ちゃんのネクタイ姿。なんとなく、色の系統が分かってきてたぶん、嫌いじゃないだろうと選んだ。
「…なあ」

呼ばれてやっと顔をあげれば、亮ちゃんはネクタイを持ち「これの意味知っとる?」と尋ねてくる。
質問の意味がわからず、亮ちゃんをただ見つめる。


「"あなたに首ったけ"」

へ?と間抜けな音が口から漏れて「女が男にネクタイ贈るのは、そーゆう意味があんねんで」とニヤリと亮ちゃんは笑う。

確かに、間違ってはいない。
なんとなく言葉を返せずにいれば、ギッと亮ちゃんの座る椅子の音がして向かい合っていた距離が縮まった。

「これ、の"意味"は?」

今まで見たことない亮ちゃんがそこにはいて。
口は自然と開いていた。


「あなたに首ったけ」


次に見たのは、伏し目がちな亮ちゃんの瞳と唇に感じた柔らかな温もりだった。





20161221




久しぶりの更新。
おやおや?











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -