「また空振りやなあ。なんで昼間の犯行なんに、目撃無いんやろ?横ちょどう思う?

…横ちょ?」
「は?え、なんて?」
聞き込みしても、なかなか情報が得られず疑問を今日の相棒に問いかければ。
仕事に関しては、ものすごく集中してるはずなのに一点を見つめ、俺の言葉が耳に入ってないようだった。

「あの二人、心配なんやろ?」
腕時計を見れば、いつもの自分の相棒ともう一人の同期と別れてまだ20分も経っていなかった。
「ちゃうって、すまん。ちょっと寝不足で頭ボーッとしとったわ。…それに、何年前の話やねん。大丈夫やろ」
笑って返す横ちょを見上げながら「名前にそう言われたん?」と言えば、開いていた口がきゅっと閉じた。
「相変わらず、分かりやすいなあ。心配なら心配って言えばええやん」
「アホ。別に子供やあらへんし、…ヒナやってあいつが傷つくことはせえへん。絶対」
そう言い切った彼は、「ほら、次行こうや。ヒナにどやされるで」と足を進めた。
それにひとつため息をついて、後を追いかけた。


「なあ、4件とも犯行は昼間やったよな?」
二手に分かれて、事件の聞き込みをしてもなかなか目撃者がいない。
ヨコたちは、なにか見つけただろうか。そう考えながら、もう一度整理する。

「うん。みんな午後1時から2時の間。ただ、4件目だけは午後3時過ぎ。けど被害者は全員後ろから襲われて目隠しされて車に乗せられてる。場所もわかってなかった。複数犯とも思ったけど、被害者は一人にしか暴行されなかったみたい」
「で、事が終わったらまた車に乗せて人気がないところに放置…。この時間が手掛かりやと思うねんなあ」
「襲われた?」
「おん。犯人にとって、この時間が自由に出来る時間ちゃうか?例えば、社用車使っとる営業マン」

少しずつ霧が晴れていく。村上さんが上着の内ポケットから四つ折りされた紙を取り出す。
「4件の発生場所は、区を跨いどるけど範囲は車なら、20分もかからんで行ける。」
四つ折りの紙を広げて、発生場所が記された地図を点で結べば丸い形ができた。
「今日まで合同じゃなかったから気付かなかったけど…これが犯人の行動範囲」
地図を見ながら村上さんは「ヨコに電話して」と言い、自分も携帯を取り出し恐らく班長あたりに連絡してくれるようだった。


それから、捜査は瞬く間に進んだ。村上さんの読み通り、犯人の行動範囲を集中的に張り込み毎日同じ時間に現れる社用車を発見して無事に逮捕に至った。

「お疲れ様でした」
合同捜査も終えて、元の署に戻るヤス達に声をかける。
「こちらこそ。初めて名前と仕事出来て良かった」逮捕出来たしな、とヤスは笑う。
「あ、そういえば聞いた?」
ヤスの言葉に首を傾げて、隣にいるヨコも「なに?」と聞く。
「あんな…」


「信ちゃん!!」
会議室のドアを開け、書類を整理している人物を呼んだ。呼ばれた相手は、驚いた顔でこちらを見て持っていた書類を机に置いた。
「なんや、なんかあったんか?!」
私の様子に、心配そうな声を出し慌てて近寄ってくる。
「…警視庁に、」
「え?」
「警視庁に、捜査一課に行くって本当?」

その言葉に、一瞬間が空いて彼は眉を下げて笑った。
「なんや、それか。事件かと思たわ」
「なんで?あれだけ、声をかけられても断ってたのに…。」

自分でも、なんて言ったらいいか一体どうして不安なのかよくわからない感情で一杯になる。
「俺もええ歳やしな。…お前の言葉が背中押してくれたんやで」
「え?」
俯いていた顔をあげれば、優しく笑う信ちゃんはポンと私の頭に掌を乗せた。

「あの日、お前の姉ちゃんを守れんくて腑抜けになってた俺をぶん殴って言うたやろ。もっと偉くなって絶対、姉ちゃんみたいな人間を出さんといて!って」

その言葉に、胸にしまった過去が溢れてくる。
あの日、辛かったのは私達家族だけじゃない。…同僚で恋人だった人を亡くしたこの人もだ。

「…ぶん殴ってはないでしょ」
「いや、結構ズドンと来たで。ここに」
頭に乗せていた掌を下ろし、自分の心臓あたりを叩いて悪戯げに笑った。

「…信ちゃん、きっとお姉ちゃんも喜んでる」
その言葉に、キラっとその瞳が光った気がした。


「…話、出来たん?」
会議室を出て、自分のデスクに戻れば私の椅子に座ったヨコが出迎えた。
「うん。…ちゃんと、やっと私もスッキリした気がする」
そう言えば立ち上がったヨコは、私の鞄を取り課の入り口に歩き出す。

「え、ちょっとヨコ!」
「課長が今日は早く上がってええって。…帰るで」

振り返ってまた足を進めたヨコの背中を数秒見つめて、まだいる課の人に挨拶して慌てて追いかけた。

「ヨコ、待っててくれたの?」
エレベーターの前で隣に並び、問いかければ「どうせ、飲み行くやろ」と言う。
それに笑えば「なんやねん」と横目で見られる。

「別に〜」
「アホ」


たぶん、きっと信ちゃんとお姉ちゃんもこんな風に過ごしたのかもしれない。



いつの日にか、また逢う日まで


20161029







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