「名前!」
聞き込み捜査が終わって、署から1番近いコンビニに行く途中呼び止められ振り返った。

「あ、ヤス!久しぶり」
可愛いらしい笑顔で駆け寄ってきた小柄な体型の男は「久しぶりやなあ」と隣に並んだ。
「珍しいね、こっちにいるの」
「あれ、聞いてない?今名前達が追ってるの俺んとこが追ってるのと同一人物の可能性高いみたいでな。合同捜査やて」
ま、俺も朝聞いたんやけど…と続けるヤスは「あれ、横ちょは?」と首を傾げる。
ヤスと私とヨコは警察学校の同級生で、ヤスは隣の区域に配属され、私とヨコは同じ配属先のしかも課と班まで一緒になった。
「ヨコは、先に署に戻ってる。私はコンビニまで」と財布を見せる。
「そか。じゃ、俺たぶん先輩ら行ってるから先に行くな?後でな」と手を振るヤスに同じように手を振った。…ヤスのとこと合同なら、あの人もいるのか、と出そうになったため息を飲み込んで急いでコンビニに向かった。


「今回の被害者で、4人目だ。全て共通点は無く、4人目からは犯行の範囲を広げー」
いつもより広い会議室で始まった捜査会議の1番前で話す人物を見る。警察学校を首席で卒業し、エリート街道まっしぐらだと言われたその人は、警視庁への道を断りなぜか所轄署に進んだ、ある意味変わり者だと呼ばれている。
「ではそれぞれの情報を共有し、犯人逮捕に全力を挙げてほしい」
その言葉と同時に、それぞれ席を立ち先ほど持ち回りを指示された班同士で集まる。
「苗字横山は安田くんと、「私が一緒に行きますよ、柏木さん」
うちの班のトップ柏木班長が、指示を出していると間に入ってきた声にみんながそちらを見た。先ほど前で話していた"変わり者"が立っていた。
「では、村上くんと4人で聞き込みをしもう一度洗い直ししてくれ。何かわかり次第随時報告するように」
指示を受け、鞄を持ち課を出ればヨコがエレベーターの前で待っていた。
「あれ、どしたの?ヤス達は?」
「先に下行っとる。…お前、大丈夫か?」

2人でエレベーターに乗り込み、ヨコが伺うように聞いてくる。
「もう何年前の話よ。さ、絶対捕まえよ」
いまだ心配そうな相棒の肩を叩き、エレベーターから降りた。

「とりあえず二手に分かれようや。ヒナんとこ、割と絞り込んでたんやろ?」
ヒナ、とヨコが呼んだのは"変わり者"と言われた村上信五。この縦社会の警察で、私たちより3つ年上のこの人を気軽にあだ名で呼べるのはヨコと幼なじみだという事と、「絞り込んどったけど、4人目から犯行時間も場所もガラッと変えよったからな。1件目から洗い直したがええんちゃうか。二手に分かれて1時間後、なにも分からなくても一度合流。ええか?」と腕時計を見ながら確認する。
「なら、俺と村上くん。ヨコちょと名前で分かれよっか」とヤスの言葉に頷こうとしたら、「お前とヨコで行け」
「え?」
「合同なんやから、いつもと違う方がお互い見え方変わってええやろ」
「まあ…確かに…」とヤスが私たちを伺いながらも頷きヨコを見れば「…ヤス行くで」と私を一瞥して歩き出す。「ちゃんと1時間後連絡せえよ!」と村上くんが2人に投げかける。それに、ヤスが振り返ってオッケーサインを出した。


「なら…俺らも行くか」
「村上さん「信ちゃんでええのに」
苦笑いして私を見たその人を見上げる。なんて返せばいいかわからず黙ってると、「さ、絶対捕まえるで」と頭にポンと手が乗った。

歩き出した背中を見て、今は事件に集中しようと余計な邪念を振り払うように頭を振って急いで追いかけた。


忘れたいものと忘れたくないもの

20160925





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